国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
国宝・重要文化財(美術工芸品)
主情報
名称
:
紙本著色白衣観音図
ふりがな
:
しほんちゃくしょくびゃくえかんのんず
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員数
:
1幅
種別
:
絵画
国
:
日本
時代
:
室町
年代
:
西暦
:
作者
:
寸法・重量
:
品質・形状
:
ト書
:
画賛・奥書・銘文等
:
伝来・その他参考となるべき事項
:
指定番号(登録番号)
:
2035
枝番
:
国宝・重文区分
:
重要文化財
重文指定年月日
:
2009.07.10(平成21.07.10)
国宝指定年月日
:
追加年月日
:
所在都道府県
:
京都府
所在地
:
保管施設の名称
:
所有者名
:
東福寺
管理団体・管理責任者名
:
解説文:
詳細解説
しぶきを上げる波濤の中から立ち上がる岩の上、両手を腹前で禅定印に結んで結跏趺坐する正面観の白衣観音を描く。画面左には善財童子が岩上で観音に向かって合掌し、右には海中から半身を表す龍が描かれる。古来、寺伝で明兆(1352~1431)筆とされてきた。 岩や雲、波濤などが力強い水墨表現で描かれ、全体的な画面構成も構築的である点で、室町時代の仏画としての特色が顕著であり、同時代の多様な白衣観音図の中でも、ひときわ規模の大きな作品。
関連情報
(情報の有無)
附指定
なし
一つ書
なし
添付ファイル
なし
解説文
しぶきを上げる波濤の中から立ち上がる岩の上、両手を腹前で禅定印に結んで結跏趺坐する正面観の白衣観音を描く。画面左には善財童子が岩上で観音に向かって合掌し、右には海中から半身を表す龍が描かれる。古来、寺伝で明兆(1352~1431)筆とされてきた。 岩や雲、波濤などが力強い水墨表現で描かれ、全体的な画面構成も構築的である点で、室町時代の仏画としての特色が顕著であり、同時代の多様な白衣観音図の中でも、ひときわ規模の大きな作品。
詳細解説▶
詳細解説
波しぶきが上がる海中から屹立する岩座に、円光を背にし禅定印を結んで結跏趺坐する白衣観音を正面向きに描く。手前には岩上で合掌し観音を拝する善財童子が、海中には竜が描かれる。観音の頭頂と、左右下の善財童子と竜の位置する点とを結ぶ線が二等辺三角形を形作り、これにより構図の安定が図られる。洞窟の岩は力強く荒々しい墨描で表される。観音の上方には下向きに鋭角的に張り出す岩があり、蔓が垂れてくる。画面の周縁部にはいくぶん類型的な輪郭を持つ雲が描かれる。下部の水波は岩が立ち上がる周囲では激しい波しぶきが上がるが、観音の背後になるとやや穏やかに表現される。現状では褪色が甚だしいが、観音の肉身部、着衣、宝冠や装飾、あるいは岩の点苔や水波、波頭、雲など、広範囲に賦彩が施されている。岩や海波などの描写は力強く荒々しい墨描を基調とするが、観音の肩の辺りや円光などには外暈風に淡墨を掃く表現が認められ、繊細な水墨表現を駆使する側面も見られる。白衣観音は三十三観音の一つで、中世禅林において好んで描かれた尊格であるが、具体的な図像根拠は不明で、さまざまな像容を示す作例が多数残る。本図のように白衣観音が禅定印を結び結跏趺坐する正面向きの図様は、室町時代の三十三観音図や江戸時代に刊行された『仏像図彙』「三十三體観音」などでは全体の中幅を占める図様である。本図は落款を伴わないが、東福寺の殿司として作画活動をした明兆(一三五二~一四三一)の手になるものと伝承されてきた。たとえば狩野永納『本朝画史』明兆伝では「正面白衣観音像大幅」として本図を明兆画に数えている。明兆は活躍時期が長く、濃彩の道釈人物画から余技的な水墨画まで作域が非常に幅広い。本図に認められる描法上の特徴をほかの明兆画と比較してみると、観音の着衣の衣褶線は先端が鋭く尖る肥痩線で、明兆七四歳(応永三十二年〈一四二五〉)の落款が記される「白衣観音像」(重要文化財、静岡・MOA美術館)と近い。MOA美術館本では中心の観音を比較的小さめに描き、背景となる自然景を大きくとらえているが、この点も本図と共通する特徴といえる。また岩の表現は、輪郭を太く息の長い渇筆で一気に引き、その内側を白く描き残し、やや距離を置いてから短く速度ある皴を施して岩の立体感と質感を表している。これに近い表現は、箱蓋裏に応永二十五年の年記墨書を伴う「達磨像」(重要文化財、京都・東福寺)に認められる。湧き上がる雲にくくられた洞窟の中に像主を正面向きに描写する構成も達磨像と本図とでは共通する。また明兆の後継者とされる赤脚子や霊彩に、本図の影響を受けてなされたと思われる白衣観音図の作例がある。愚極礼才の賛を伴う赤脚子筆「白衣観音図」(京都・鹿苑寺)は、全くの直模ではないが、巌中の観音に善財童子と竜が添えられる構成が共通する。特に斜め後ろ姿の善財童子の頭部の描写はほぼ一致する。また霊彩による「白衣観音図」(京都・玉泉寺)は、直接的な図様典拠は愛知・妙興寺所蔵の良全筆「白衣観音図」(重要文化財)にあるが、着衣の衣褶の描法や裳裾の形態などは本図からの影響とみられる表現がうかがえる。このように本図は、落款や同年代の記録がないため明兆筆と断定できるものではないが、作風の特徴や後代への影響などから判断して室町時代の東福寺における明兆派の一作例ということができよう。本図は、正面観が強く本格的な礼拝対象としての仏面の威儀を整えている一方で、大胆で力強い水墨表現を併せもつ。伝存する同時期の仏画の中でも破格の大きさを誇る貴重な遺例である。