国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
国宝・重要文化財(美術工芸品)
主情報
名称
:
木造千手観音立像
ふりがな
:
もくぞうせんじゅかんのんりゅうぞう
解説表示▶
員数
:
1躯
種別
:
彫刻
国
:
時代
:
平安
年代
:
西暦
:
作者
:
寸法・重量
:
品質・形状
:
ト書
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画賛・奥書・銘文等
:
伝来・その他参考となるべき事項
:
指定番号(登録番号)
:
3577
枝番
:
国宝・重文区分
:
重要文化財
重文指定年月日
:
2011.06.27(平成23.06.27)
国宝指定年月日
:
追加年月日
:
所在都道府県
:
滋賀県
所在地
:
保管施設の名称
:
所有者名
:
千手院
管理団体・管理責任者名
:
解説文:
詳細解説
千手院本尊像(重要文化財)と同形同大で、本尊像の「御代仏」(身代わりの仏)として伝えられた像。針葉樹の一木造で瞳に異材を嵌入し、肉感豊かな体軀や流麗で鋭角的な翻波式衣文などに九世紀の特色を示している。
関連情報
(情報の有無)
附指定
なし
一つ書
なし
添付ファイル
なし
解説文
千手院本尊像(重要文化財)と同形同大で、本尊像の「御代仏」(身代わりの仏)として伝えられた像。針葉樹の一木造で瞳に異材を嵌入し、肉感豊かな体軀や流麗で鋭角的な翻波式衣文などに九世紀の特色を示している。
詳細解説▶
詳細解説
報恩大師が開いたという伝承をもつ大賀島寺の本尊で、秘仏として伝えられた。榧とみられる堅密な針葉樹から垂髪遊離部を含む本体および台座蓮肉(底部に心棒孔を穿つ)を刻み出し、内刳は施さない。真手および脇手の六本は前膊まで本体材より彫出し、脇手の二二本は同じく上膊まで彫出する。現状は近年に施された古色塗に覆われるが元来は素地仕上だったかとみられ、おそらく代用材を用いた檀像として造られたものであろう。 腰を右に捻り、左膝を緩めて立つが、このように明らかな動勢を示す千手観音像はほかに知られない。しかも遊脚の踵を浮かせており、同様の表現をとる像として三重・瀬古区十一面観音像(重要文化財)が知られる。同像のこの特徴は十一面観音経典に「自然動揺」(『十一面観世音神呪経』)などとみえる行者の神呪の読誦に応えて白檀十一面観音像の示す瑞相と結びつけて解釈され、本像の動勢についてもこれに類する性格のものとみなすことができる。また髻の形からみれば本来頭上面が存在したか検討の余地があり、栃木・大谷寺像(大谷磨崖仏、重要文化財)や広島・北広島町像(所在古保利薬師堂、重要文化財)のごとき一面千手であった可能性も考慮すべきと思われる。 著衣形式では、体正面を斜めにわたる条帛が膝にまで及ぶのが特異で、山形・宝積寺十一面観音像(重要文化財)など一部の平安初期作例に腰に及ぶ例があるがここまで低い位置になるのはほかにない。背面で条帛と天衣が襷状に交差する構成は京都・宝菩提院菩薩像(国宝)や宝積院像など八世紀末~九世紀の檀像系の作例にみられる。花形にまとめた髻は宝菩提院像や京都・醍醐寺聖観音像(重要文化財)などと共通し、耳前の髪筋が上昇して髻の中に入る凝った髪の形式は宝菩提院像、天冠台の上部に大きな花形を配するのは醍醐寺像や大阪・道明寺十一面観音像(国宝)などが類例として挙げられる。 頭部が小さく下半身の長大な体型は著しい破調をみせており、脇手は矧付部の大半が後補かとみられるが、概形は当初とさほど変わっていないと思われ、その頭躰との均衡を欠いた大きさが異風を強めている。頬の長い顔立ちには中~晩唐風が濃厚にうかがえる。彫り口は大胆で力強く、著衣は凹部を深くえぐり、衣縁や衣文の峰を鋭く立ち上がらせ、動勢や肉身の起伏に応じて動きのある襞を刻んでおり、殊に条帛と天衣が随所に衣縁のうねりや翻転を伴い交錯するさまを克明に表した彫技にみるべきものがある。 このように、本像には平安初期の檀像系作例に特徴的な諸形式や表現が集約的に用いられているのが看取される。眉が隆起し、口を強く結んで厳しい表情を示す面貌や刀痕をとどめた仕上げなどは京都・神護寺薬師如来像(国宝)を想起させ、製作年代は神護寺像や、本像に類する形式を多くみせる宝菩提院像からさほど隔たらぬ時期、遅くとも九世紀前半とみて誤りないであろう。なお脇手の過半まで本体と共木で彫出する千手観音像はほかに北広島町像があるのみで、初期木彫像におけるできるかぎり像を一材より彫ろうという意識をうかがわせる。平安早期の異色の作例として注目される。