国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
国宝・重要文化財(美術工芸品)
主情報
名称
:
刺繍種子阿弥陀三尊掛幅
ふりがな
:
ししゅうしゅじあみださんぞんかけふく
解説表示▶
員数
:
1幅
種別
:
工芸品
国
:
日本
時代
:
鎌倉
年代
:
西暦
:
作者
:
寸法・重量
:
品質・形状
:
ト書
:
画賛・奥書・銘文等
:
伝来・その他参考となるべき事項
:
指定番号(登録番号)
:
02015
枝番
:
00
国宝・重文区分
:
重要文化財
重文指定年月日
:
1959.12.18(昭和34.12.18)
国宝指定年月日
:
追加年月日
:
所在都道府県
:
栃木県
所在地
:
保管施設の名称
:
所有者名
:
輪王寺
管理団体・管理責任者名
:
解説文:
掛幅装仕立て。本紙部分に阿弥陀三尊の種子を中心に、天蓋・色紙形や蝶形三足卓【ちようがたみつあししよく】を、刺繍によって表した繍仏で、本紙部分はもとより、天地や中廻【ちゆうまわ】しといった表装部分にも各種の文様意匠が刺繍された、いわゆる総繍の作品である。
本紙部分中央の三尊種子は上段が「ア」、向かって右下が「サ」、左下が「サク」で、順に阿弥陀・観音・勢至の阿弥陀三尊を表している。本紙部分上部中央には天蓋を配し、その左右には色紙形を設けて以下の偈を記している。
「極重悪人 無他方便/唯称弥陀 得生極楽」
(向かって右)
「光明遍照 十方世界/念仏衆生 摂取不捨」
(向かって左)
本紙部分の下部三分の一は地に石畳文を表して床とし、中央に芒や蓮華を活けた花瓶と、煙を上げる香炉を安んじた蝶形三足卓を据えている。天地には蓮華唐草文を表し、中廻しと中廻しの柱には麻葉繋文【あさばつなぎもん】を地文として円相内に納まる種子「ア」を四八か所廻らせている。
総体の刺繍は、萌黄【もえぎ】・濃萌黄【こきもえぎ】・浅葱【あさぎ】・縹【はなだ】・紺・紫・紅・黄・白などの平糸・撚糸【よりいと】のほか毛髪を用い、面部は平繍いや刺し繍いで埋めて返し繍いや纏【まつ】い繍いで輪郭をとるという技法が主であるが、阿弥陀三尊の蓮華座や天蓋・三足卓上の蓮華などは暈繝【うんげん】繍い、中廻しや床の地文は割付繍いを用い、種子・三足卓の一部・色紙形の文字は髪繍【はつしゆう】としている。
軸木両端には金泥で蓮華座を描いた紺紙を貼って、蓮華座上に舎利【しやり】一粒を納入し、金銅製蓮華唐草文透彫覆輪【ふくりん】をはめた円筒形水晶をかぶせている。また八双には金銅蓮華形吊金具を打っている。なお表背には以下の墨書が記されている。
「奉納河内国 誉田八幡宮宗廟寶庫訖/寛永十八年辛巳正月十五辰/式部卿法印竜慶敬白」
各部分の意匠についてみると、色紙形の偈のうち向かって左は、浄土三部経のひとつである『観無量寿経』に取材したもの。右についても、法然の語録などに「『観無量寿経』に曰く」として登場する文言である。また中廻しの「ア」字は仏の通種子で、四八箇で阿弥陀の四八願を象徴したと解される。蝶形三足卓についても、兵庫・浄土寺に伝わる黒漆蝶形三足卓二基(重文)をはじめ、法然上人絵伝四十八巻(国宝京都・知恩院)や、当麻曼荼羅縁起絵巻一巻(国宝 神奈川・光明寺)に画中資料として描かれるなど、主に浄土教系寺院に多く使用例がみられる堂内具であり、総体に阿弥陀三尊種子を荘厳するにふさわしい意匠が随所に用いられている。
種子阿弥陀三尊図を中心に、天蓋や花瓶・香炉などを安んじた三足卓などを、刺繍によって表した同種の作例は、栃木・輪王寺の刺繍種子阿弥陀三尊図(重文 鎌倉時代)のほか、鎌倉時代から室町時代の製作になる二〇数例が知られている。本件は天地の蓮華唐草文の文様表現に若干の堅さが看守され、輪王寺蔵品からやや時代を経た南北朝時代の作品と判断されるが、総体の意匠は破綻なく端整な形態を示し、繍技も緻密かつ正確で、この種の種子繍仏のなかでも優れた作行【さくゆき】を示す優品である。
なお奉納者である式部卿法院竜慶【しきぶきようほういんりゆうけい】は、「寛永諸家系図伝」(重文 栃木・東照宮)などによれば河内国坂戸源氏大橋重保【おおはししげやす】で、徳川二代将軍秀忠【ひでただ】の右筆【ゆうひつ】をつとめたのち寛永十年(一六三三)に出家して竜慶と号し、正保二年(一六四五)二月四日、六四歳で没した。
関連情報
(情報の有無)
附指定
なし
一つ書
なし
添付ファイル
なし
解説文
掛幅装仕立て。本紙部分に阿弥陀三尊の種子を中心に、天蓋・色紙形や蝶形三足卓【ちようがたみつあししよく】を、刺繍によって表した繍仏で、本紙部分はもとより、天地や中廻【ちゆうまわ】しといった表装部分にも各種の文様意匠が刺繍された、いわゆる総繍の作品である。 本紙部分中央の三尊種子は上段が「ア」、向かって右下が「サ」、左下が「サク」で、順に阿弥陀・観音・勢至の阿弥陀三尊を表している。本紙部分上部中央には天蓋を配し、その左右には色紙形を設けて以下の偈を記している。 「極重悪人 無他方便/唯称弥陀 得生極楽」 (向かって右) 「光明遍照 十方世界/念仏衆生 摂取不捨」 (向かって左) 本紙部分の下部三分の一は地に石畳文を表して床とし、中央に芒や蓮華を活けた花瓶と、煙を上げる香炉を安んじた蝶形三足卓を据えている。天地には蓮華唐草文を表し、中廻しと中廻しの柱には麻葉繋文【あさばつなぎもん】を地文として円相内に納まる種子「ア」を四八か所廻らせている。 総体の刺繍は、萌黄【もえぎ】・濃萌黄【こきもえぎ】・浅葱【あさぎ】・縹【はなだ】・紺・紫・紅・黄・白などの平糸・撚糸【よりいと】のほか毛髪を用い、面部は平繍いや刺し繍いで埋めて返し繍いや纏【まつ】い繍いで輪郭をとるという技法が主であるが、阿弥陀三尊の蓮華座や天蓋・三足卓上の蓮華などは暈繝【うんげん】繍い、中廻しや床の地文は割付繍いを用い、種子・三足卓の一部・色紙形の文字は髪繍【はつしゆう】としている。 軸木両端には金泥で蓮華座を描いた紺紙を貼って、蓮華座上に舎利【しやり】一粒を納入し、金銅製蓮華唐草文透彫覆輪【ふくりん】をはめた円筒形水晶をかぶせている。また八双には金銅蓮華形吊金具を打っている。なお表背には以下の墨書が記されている。 「奉納河内国 誉田八幡宮宗廟寶庫訖/寛永十八年辛巳正月十五辰/式部卿法印竜慶敬白」 各部分の意匠についてみると、色紙形の偈のうち向かって左は、浄土三部経のひとつである『観無量寿経』に取材したもの。右についても、法然の語録などに「『観無量寿経』に曰く」として登場する文言である。また中廻しの「ア」字は仏の通種子で、四八箇で阿弥陀の四八願を象徴したと解される。蝶形三足卓についても、兵庫・浄土寺に伝わる黒漆蝶形三足卓二基(重文)をはじめ、法然上人絵伝四十八巻(国宝京都・知恩院)や、当麻曼荼羅縁起絵巻一巻(国宝 神奈川・光明寺)に画中資料として描かれるなど、主に浄土教系寺院に多く使用例がみられる堂内具であり、総体に阿弥陀三尊種子を荘厳するにふさわしい意匠が随所に用いられている。 種子阿弥陀三尊図を中心に、天蓋や花瓶・香炉などを安んじた三足卓などを、刺繍によって表した同種の作例は、栃木・輪王寺の刺繍種子阿弥陀三尊図(重文 鎌倉時代)のほか、鎌倉時代から室町時代の製作になる二〇数例が知られている。本件は天地の蓮華唐草文の文様表現に若干の堅さが看守され、輪王寺蔵品からやや時代を経た南北朝時代の作品と判断されるが、総体の意匠は破綻なく端整な形態を示し、繍技も緻密かつ正確で、この種の種子繍仏のなかでも優れた作行【さくゆき】を示す優品である。 なお奉納者である式部卿法院竜慶【しきぶきようほういんりゆうけい】は、「寛永諸家系図伝」(重文 栃木・東照宮)などによれば河内国坂戸源氏大橋重保【おおはししげやす】で、徳川二代将軍秀忠【ひでただ】の右筆【ゆうひつ】をつとめたのち寛永十年(一六三三)に出家して竜慶と号し、正保二年(一六四五)二月四日、六四歳で没した。