国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
重要有形民俗文化財
主情報
名称
:
阿仁マタギの狩猟用具
ふりがな
:
あにまたぎのしゅりょうようぐ
阿仁マタギの狩猟用具
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員数
:
293点
種別
:
生産、生業に用いられるもの
年代
:
その他参考となるべき事項
:
指定番号
:
00227
指定年月日
:
2013.03.12(平成25.03.12)
追加年月日
:
指定基準1
:
(二)生産、生業に用いられるもの 例えば、農具、漁猟具、工匠用具、紡織用具、作業場等
指定基準2
:
(三)地域的特色を示すもの
指定基準3
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所在都道府県
:
秋田県
所在地
:
保管施設の名称
:
所有者名
:
管理団体・管理責任者名
:
北秋田市
阿仁マタギの狩猟用具
解説文:
詳細解説
本件は、秋田県北秋田市阿仁地域の打当、比立内、根子などの集落に居住したマタギと呼ばれる人々が使用した槍、罠、衣装、山小屋での生活用具、行商関係の用具などの狩猟用具をまとめたものである。
阿仁マタギは、集団猟を行うことで知られ、熊やカモシカなどの大型獣や野兎、ムササビなどの小型獣などを獲物とする狩猟によって生計をたててきた。マタギの狩猟活動には居住地区周辺で行う里マタギと福島、新潟など遠方まで出かける旅マタギがあり、旅マタギでは先々で熊の胆などの薬の行商を行った。こうした諸々の活動の用具が網羅されている。
関連情報
(情報の有無)
附
なし
添付ファイル
なし
写真一覧
阿仁マタギの狩猟用具
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阿仁マタギの狩猟用具
解説文
本件は、秋田県北秋田市阿仁地域の打当、比立内、根子などの集落に居住したマタギと呼ばれる人々が使用した槍、罠、衣装、山小屋での生活用具、行商関係の用具などの狩猟用具をまとめたものである。 阿仁マタギは、集団猟を行うことで知られ、熊やカモシカなどの大型獣や野兎、ムササビなどの小型獣などを獲物とする狩猟によって生計をたててきた。マタギの狩猟活動には居住地区周辺で行う里マタギと福島、新潟など遠方まで出かける旅マタギがあり、旅マタギでは先々で熊の胆などの薬の行商を行った。こうした諸々の活動の用具が網羅されている。
詳細解説▶
詳細解説
阿仁マタギの狩猟用具は、秋田県北秋田市の阿仁地域にある打当、比立内、根子などの集落に居住する人々を中心に、狩猟に従事したマタギと呼ばれる人々が狩猟にあたって使用した用具類で、北秋田市が管理責任者として管理にあたっているものである。 打当、比立内、根子を含む阿仁地域は、秋田県北部に位置する北秋田市のやや南東部に位置する地域で、米代川の支流である阿仁川が流れる山岳地域である。この地域は秋田県内でも豪雪地帯として知られ、11月中旬から翌年の5月中旬まで雪に囲まれた生活が続くことが多い。阿仁地域の人々は厳しい自然環境の中、狩猟によって得た毛皮や肉、熊の胆などによる収入により生計を維持してきた。 阿仁マタギと総称されるこの地域の狩猟民たちは、1年を通じて猟を行っていた。正月は猟に出ることはないが、1月中旬を過ぎると猟に出て、春までの間はバンドリ(ムササビ)、兎などを獲り、春先にかけては集団での熊猟も行っていた。そして秋の農作業が終わる10月末頃から再び熊猟が始まり、同じ10月末から11月にかけては山鳥も獲った。 これらの猟では熊をはじめ昭和初期に法によって捕獲が禁止されるまではアオシシ(カモシカ)などの大型獣、マミ(アナグマ)、ムジナ(狸)、ヤエン(猿)、狐、兎、テン、イタチ、バンドリなどの小型獣、そして山鳥などの鳥類と様々な動物を狩猟対象としてきた。 猟の方法もヒトリマタギといわれる一人で行う猟や、巻き狩りのように集団で行うものがある。特に熊猟はシカリあるいは山オヤジと呼ばれる頭領を中心に5~30人くらいで組織的に猟が行われることが多く、集落内には複数の組が存在していた。また奥山での狩猟にあたっては猟場に狩小屋あるいはマタギ小屋と呼ばれる小屋をつくり、そこに数日間泊まり込むこともあった。 猟に使う用具もタテと呼ばれる鎗や銃、兎猟に使用されたワラダと呼ばれる藁製の猟具、そして罠など様々である。 阿仁マタギの猟場は、集落を取り囲むように屹立する太平山、大仏岳、森吉山などの山塊一帯であり、これらの地域で行われる猟は里マタギと呼ばれる。 この里マタギに対して奥羽山脈、出羽山地などを南に行き、岩手県、福島県、山形県、新潟県、さらには石川県あたりまで猟に出かけたという伝承があり、これら遠隔地まで猟に出かけることを旅マタギと呼んでいる。この旅マタギの活動の一端を示す資料として、本件には「会津絵図」と名付けられた資料もみられる。この資料は、現在の福島県南会津郡只見町黒谷周辺の猟場を記した絵図で、阿仁マタギが黒谷周辺に狩猟に出かけていたことを示す資料である。旅マタギの間に得た獲物はそのまま阿仁まで持ち帰ることは困難であったので、その地域で売りさばかれ現金化された。 阿仁マタギが狩猟に使用する用具は、猟の対象となる動物によって異なる。熊は積雪の多い厳冬期を除いた晩秋期や春先の積雪がゆるみ始める頃が主な猟期であった。これに対してアオシシ猟が行われていた昭和初期まではアオシシの毛皮の質が一年のうちでもっとも良いとされる厳冬期に猟が行われた。 これら大型獣の猟では早くはタテと呼ばれる鎗が使われ、その後、火縄銃が使われるようになり、明治になってからは村田銃が使われるようになった。雪のない季節にはヒラオトシと呼ばれる罠を利用して猟が行われたが、現在では、罠の使用は禁止されている。本件にはこれらの用具が網羅的に含まれているほか、銃の弾を作る際に用いられた鋳型などもある。 捕獲した獲物は雪上を柴ソリにのせて集落まで運び、マキリやコヨリなどの小刀を使って解体する。解体した後の毛皮についている脂は脂とり包丁で取り除き、その後、木枠を利用して毛皮の耐久性、柔軟性をもたせるためのナメシが行われる。これら一連の解体・加工に関する用具も収集されている。 また、猟に出かけるときに身につけたモンペ、袴、腹掛けなどの衣装類、手につけるテウエ、防寒用のアオシシの革製のテッキャアス、足元用の藁製のツマゴ、アオシシのケタビ、カンジキ、藁製の蓑、毛皮製の皮ケラなどもある。これらの衣装類は全体的に薄着のものが多く、発汗を抑える工夫も施されている。それにより、冬期の猟の際、発汗して濡れた状態でいて凍結して凍傷となるを防いでいる。また、ハラカケには弾、火打ち石、火打ちガネ、火薬入れなどを入れるためのポケットがついている。 中・小型獣を獲る猟、たとえば猿、バンドリなどは樹上にいるため銃で猟が行われ、バンドリは月夜に行われた。兎、マミ、狐、狸などの猟には大型獣を獲るための罠であるヒラオトシを小型にしたウッチョウが用いられた。また積雪期の兎猟では藁製のワラダも用いられた。ワラダは兎を見つけたとき、その上空に向かって投げるもので、投げると猛禽類の羽音に似た音が出る。この音に兎が怯えて巣穴に逃げ込んだところを捕獲する猟である。 兎よりさらに小型のイタチなどの猟にはイタチドリ(竹筒)などの専用の捕獲具が用いられた。 さらに、鳥類の捕獲にはゴモジ、ツトなどと呼ばれる罠が用いられた。 このほか、猟の際に寝泊まりする狩小屋で用いられた用具には釣瓶や鍋などのほか、莚などもある。 薬関連用具には熊の胆や熊の頭骨などの原料と薬研、熊のし板などの製薬に用いた用具、そして薬袋や行商鑑札、行李など薬の行商に携行した用具類がある。 本件は、秋田県北秋田市に居住して伝統的な狩猟技術を伝え、東日本各地に広く活動した日本を代表する狩猟民である阿仁マタギの狩猟と薬の行商活動の実態をよく示すものであり、日本における狩猟習俗の比較の上でも重要なまとまりである。