国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
重要無形民俗文化財
主情報
名称
:
上総掘りの技術
ふりがな
:
かずさぼりのぎじゅつ
上総掘りの技術
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種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
※上総掘りに関する用具類は、昭和35年(平成7年追加指定)に重要有形民俗文化財に指定された「上総掘りの用具」(258点)の一部を構成している。
指定証書番号
:
414
指定年月日
:
2006.03.15(平成18.03.15)
追加年月日
:
指定基準1
:
(二)技術の変遷の過程を示すもの
指定基準2
:
(三)地域的特色を示すもの
指定基準3
:
所在都道府県、地域
:
千葉県
所在地
:
千葉県上総地方
保護団体名
:
上総掘り技術伝承研究会
上総掘りの技術
解説文:
詳細解説
上総掘りの技術は、千葉県の上総地方で考案された掘り抜き井戸の掘削技術で、細長い鉄管とそれを地中の孔に吊す竹製のヒゴを基本的な用具とし、用具の自重を利用しながら専ら人力を頼りに地下を掘り進み、帯水層にある地下水を掘り当てる技術である。
上総掘りは、鑿を先端に付けた鉄管と割竹製の帯状のヒゴを使用し、人力のみで地面を突いて細い竪穴を掘っていくものである。水を含む層はシキといい、このシキ層の見分けも重要な技術であり、掘屑に混じる砂の色や含水性をみて水の良否や帯水量を判断する。掘削進度は、個人差があるが、一日に約三間(約五・四メートル)程度といわれている。
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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上総掘りの技術
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上総掘りの技術
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解説文
上総掘りの技術は、千葉県の上総地方で考案された掘り抜き井戸の掘削技術で、細長い鉄管とそれを地中の孔に吊す竹製のヒゴを基本的な用具とし、用具の自重を利用しながら専ら人力を頼りに地下を掘り進み、帯水層にある地下水を掘り当てる技術である。 上総掘りは、鑿を先端に付けた鉄管と割竹製の帯状のヒゴを使用し、人力のみで地面を突いて細い竪穴を掘っていくものである。水を含む層はシキといい、このシキ層の見分けも重要な技術であり、掘屑に混じる砂の色や含水性をみて水の良否や帯水量を判断する。掘削進度は、個人差があるが、一日に約三間(約五・四メートル)程度といわれている。
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詳細解説
上総掘りの技術は、千葉県上総地方で考案された掘り抜き井戸の掘削技術で、細長い鉄管とそれを地中の孔に吊す竹製のヒゴを基本的な用具とし、用具の自重を利用しながら専ら人力を頼りに地下を掘り進み、帯水層にある地下水を掘り当てる技術である。 この技術は、上総地方の職人によって日本の各地に広められたことから、一般に上総掘りと呼ばれており、道具立てと技術の習得の容易さから、従来の掘り抜き井戸の掘削技術に代わって短期間のうちに広く普及した。 上総地方は、豊富な地下水を有する関東地下水盆の東南部に位置し、地層的にも岩盤を含まない比較的掘りやすい地質構造であるが、河岸段丘が発達した地形によって耕地と流水面との高低差が著しく、十分な灌漑用水が得られなかったため、慢性的な農業用水の不足に悩まされてきた。こうした自然の制約を克服し、地下水を取水、利用する技術として考案されたのが上総掘りである。この技術の成立背景には、当地方の人たちの水田作りや農業経営の安定化への強い願いがあり、この技術を習得した一般の農民層から、経験を積んで技術を習得した者たちがしだいに専業の職人となって輩出し、各地に赴いて井戸の掘削に活躍した。 上総地方では、昭和30年代半ば頃まで、小糸川や小櫃川をはじめ、湊川、養老川など上総地方の主要河川の流域で、井戸掘りを専業とする職人たちが活動しており、数多くの灌漑用や飲料用の井戸が設けられた。近代的な水道の発達やボーリング技術が発展、普及するに伴い、上総掘りはしだいに衰退を余儀なくされたが、小資本で簡便な地下水の掘削には今日でもその技術が活用されている。 上総掘り成立以前の掘り抜き井戸の掘削技術は、高い櫓を組み、長くて重い鉄棒を梃子などを使って引き上げた後に急激に落下させ、その重量の衝撃で地面を突き抜くという方法であった。この鉄棒を用いた井戸の突掘り技術は、江戸時代に関西地方で盛んに用いられていた技術であり、江戸時代後期には江戸を経由して上総地方にも伝えられた。しかし、この方法は多くの労力と日数を必要とし、掘削できる深度も20間(約36㍍)程度と浅く、また、鉄棒の落下に伴う事故が頻繁に生じるなどの欠陥があった。そこで、鉄棒に代えて軽量の樫棒を利用する突掘り技術が考案され、さらに、こうした従来の技術に改良を加えて考案されたのが上総掘りである。 上総掘りは、鑿を先端に付けた鉄管と割竹製の帯状のヒゴを使用し、人力のみで地面を突いて細い竪穴を掘っていくものである。鉄管は、ホリテッカン(掘り鉄管)と呼ばれ、長さ6~8㍍、径9~2寸ほどの細長い鉄管を加工したものである。 ホリテッカンの先には、サキワと呼ばれる円筒形の鉄製の鑿が付けられ、反対側にはヒゴが接続される。このヒゴの部分に付けられたシュモクと呼ばれる取っ手を握り、ホリテッカンを突き下ろす動作を繰り返し、孔底を突き崩しながら掘り進んでいく。 ヒゴは孟宗竹を幅2㎝ほどに割ったもので、掘り進む深度に合わせて次々と繋いで延長していく。掘削時にはネバミズと呼ばれる粘土水を孔に注ぎ入れ、地面を柔らかくして掘削時の鑿先の熱を冷やしたり、掘屑を溶かしてその回収を容易にするとともに、孔壁に吸着させて崩壊を防ぐ。 ホリテッカン先端の内部には、コシタと呼ばれる弁が装着されている。鉄管を突き下ろすとこのコシタの弁が開き、作業中に生じる掘屑が管内に回収される。掘屑がいっぱいになると、ヒゴを巻き上げて鉄管内の掘屑を地上に排出させるとともに、ホリテッカンをスイコと呼ばれるトタン製の筒に代えて孔中に溜まった掘屑を浚い出す。 この作業を繰り返しながら、目的の帯水層まで掘り進んでいく。水を含む層はシキといい、このシキ層の見分けも重要な技術であり、掘屑に混じる砂の色や含水性をみて水の良否や帯水量を判断する。掘削進度は、個人差があるが、1日に約3間(約5.41㍍)程度といわれている。 このような掘削方法は、一見単調にみえるが、掘り進む地質によってさまざな技術が使い分けられている。固い地層や礫層を掘る場合は、サキワの種類を輪一や一文字と呼ばれる横刃を付けた鑿に付け替えたり、タタキボリと称して鉄管を孔底に強く打ちつける方法が用いられ、砂地を掘る場合は、孔底に鉄管が突き当たる直前に突き上げ、孔中で砂を煽るように掘るスクイボリと呼ばれる方法が採られるなど、微妙な加減を必要とする手掘りならではの独特な技術がみられる。 また、掘削作業の労力を軽減するため、ハネギと呼ばれる竹にヒゴを連結してその弾力を利用するとともに、鉄管やスイコを引き上げたり、孔中に下ろすときには、ヒゴグルマと呼ばれるヒゴを巻き取る車輪状の木枠を用いる。 この技術は、日常生活を支えた伝統的な掘削技術として高く評価できるとともに、近代的な掘削に関する機械技術導入の基盤形成に寄与した民俗技術としても貴重であり、我が国の掘削技術の変遷を考えるうえで重要である。