国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
重要無形民俗文化財
主情報
名称
:
鴻巣の赤物製作技術
ふりがな
:
こうのすのあかものせいさくぎじゅつ
鴻巣の赤物製作技術
写真一覧▶
解説表示▶
種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
指定証書番号
:
454
指定年月日
:
2011.03.09(平成23.03.09)
追加年月日
:
指定基準1
:
(三)地域的特色を示すもの
指定基準2
:
指定基準3
:
所在都道府県、地域
:
埼玉県
所在地
:
鴻巣市
保護団体名
:
鴻巣の赤物保存会
鴻巣の赤物製作技術
解説文:
詳細解説
この技術は、赤物と呼ばれる玩具を製作する技術である。赤物とは、桐のおが屑と正麩糊を練った生地を型に入れて成形し、赤く塗った獅子や人形で、タネと呼ばれる原型からカマガタ(釜型)と呼ばれる型をつくった後、生地抜き、乾燥、バリトリなど手間のかかる工程があり、胡粉塗りや赤塗りなどの彩色、組み立ての工程を経て完成となる。(※解説は指定当時のものをもとにしています)
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
写真一覧
鴻巣の赤物製作技術
鴻巣の赤物製作技術
写真一覧
鴻巣の赤物製作技術
写真一覧
鴻巣の赤物製作技術
解説文
この技術は、赤物と呼ばれる玩具を製作する技術である。赤物とは、桐のおが屑と正麩糊を練った生地を型に入れて成形し、赤く塗った獅子や人形で、タネと呼ばれる原型からカマガタ(釜型)と呼ばれる型をつくった後、生地抜き、乾燥、バリトリなど手間のかかる工程があり、胡粉塗りや赤塗りなどの彩色、組み立ての工程を経て完成となる。(※解説は指定当時のものをもとにしています)
詳細解説▶
詳細解説
鴻巣の赤物製作技術は、埼玉県鴻巣市に伝承される、赤物と呼ばれる玩具を製作する技術である。赤物とは、桐のおが屑と正麩糊を練った生地を型に入れて成形し、赤く塗った獅子や人形のことで、その色合いから赤物の名で呼ばれている。鮮やかな赤色の持つ強い呪術力への信仰から子どもの疱瘡除けとして広く求められ、関東地方を中心に全国的に販売され、知られてきた玩具である。 鴻巣市は、埼玉県のほぼ中央、大宮台地の北端に位置する。江戸時代には中山道の宿場町として栄え、鴻巣雛と呼ばれる人形や桐箪笥の産地として知られた地域である。 鴻巣での人形製作については、近世初期に土人形がすでに作られ、明和・安永年間(1764~1708)には練物の製作が始まっていたといわれている。文化・文政期(1804~1829)に編まれた『新編武蔵風土記稿』には、現在の鴻巣市人形町にあたる上谷新田の項に「民家六十街道の左右に軒を並べ、耕種の暇雛人形なるものを製し」とあり、少なくともこの時期には雛人形の製作が盛んであったことが伺うかがわれる。 赤物の製作は、安永・天明期(1772~1788年)に始まったとの伝承もあるが、その起源は定かではなく、雛人形生産地の伝統を下地とし、桐箪笥の生産が盛んになる18世紀以降、原材料となるおが屑を大量に供給できたことと相まって登場してきたと考えられている。疫病除けの信仰との結びつきをはじめ、街道筋という地理的条件に恵まれたことや周辺農家の労働力を容易に確保できたこと、練物の製品は軽くて丈夫であり運搬にも適していたことなどから、全国的に販路が拡大し、その製作は幕末から明治・大正期にかけて大いに発展した。現在は、長年赤物製作に従事してきた、赤物屋と呼ばれる家々を中心に保存会が結成されており、伝統的な製作技術を維持しながら、赤物の製作とその技術の伝承がはかられている。 赤物の製品は、獅子頭や弓獅子、天神、達磨、鯛車、海老、鴛鴦、干支の動物など数百種類に及ぶ。子どもの無事な成長を祈る願いを反映し、金太郎を題材とした熊金、桃金、獅子金など各種の金太郎人形も多い。 赤物は、タネと呼ばれる原型からカマガタ(釜型)と呼ばれる型をつくった後、生地抜き、乾燥、バリトリなど手間のかかる工程があり、胡粉塗りや赤塗りなどの彩色、組み立ての工程を経て完成となる。生産量が非常に多かった昭和30年代までは、生地抜きを専門とする生地屋と彩色を専門とする赤物屋の分業体制が主流であり、また、生地抜きやバリトリなどの単純な仕事は、近郊農家にも下請けに出していたが、現在は、赤物屋がすべての工程を一貫して行っている。赤物の製作は、梅雨が明けた7月頃から本格的に始まる。夏の期間は主に生地抜きの作業を行い、秋から12月にかけて彩色、組立の作業を中心に行う。 タネは、桐材で作られた赤物の原型である。赤物屋には、古くから使用されてきた数多くのタネが大切に保管されており、赤物の製作は、このタネから松脂などの可塑性のある素材と木枠を用いてカマガタを作ることから始まる。 カマガタは生地を抜くための型であり、この型の製作をカタイケ(型埋け)という。製品の形状や大きさによって型は異なり、ハンペラモノ(半片物)と呼ばれる面や海老などの平面状の製品は1つの型、マルモノ(丸物)と呼ばれる人形や達磨などの立体的な製品は、上下2つのアワセガタ(合わせ型)を用いる。カマガタの製作は、熱して柔らかくした松脂が固まらないうちに仕上げなければならず、また、松脂がタネや木枠にくっつかないようにキラ(白雲母)を適度に使いながら行う。 生地は、桐のおが屑に正麩糊を加えて練って作る。おが屑は製品の大きさや種類に合わせて、粒が細かいもの、粗いものを選んで使用し、また、練り上げる硬さを調整する。生地が出来上がると、練った材料をカマガタに押し込んで型を抜く生地抜きの作業に移る。 生地抜きは、抜き台と呼ばれる作業台で行われる。カマガタの内側に油を塗ってから、適量の生地を型に詰め、親指などでまんべんなく力を加えながら型に均等に生地を押しつけていく。前記のアワセガタの場合、生地を抜く方法には、アワセとエグリの2つがある。アワセは、上下2つのカマガタにそれぞれ生地を詰め、生地を押しつけた後、型をはめ合わせ、体重をかけてしっかりと押さえ込んで上下の生地をくっつける方法である。一方、エグリは、上下のカマガタを使いながらも、おおまかに生地を詰めて型を合わせてから、型の下にあいた穴から指や突き棒を入れて生地を型に押しつけながら内部を空洞に仕上げる方法である。これはサグリヌキとも呼ばれる。いずれも生地を抜き取る際には、カマガタの角を抜き台に打ち付け、その反動で生地を型から外す。 型抜きした生地は、板などの上に並べて屋外におき、1週間ほど天日乾燥させる。 生地が乾くと、バリトリと称して、生地の合わせ目からはみ出した余分な部分を削り落とす作業に入る。また、エグリで製作した生地の場合は、底にあいた穴を和紙を張ってふさぐシリッパリを行う。また、乾燥中にひびが入ってしまった生地には、メバリといって和紙を張って亀裂を塞ぐ。 彩色の工程は、塗りと呼ばれる。生地を1つずつ串に刺してから、胡粉塗り、赤塗りの順番で行われる。胡粉塗りは、胡粉と膠を熱して調整した鍋に生地を浸け、回転させながらむらなく胡粉を塗りつけていく。両手を巧みに使い、生地と生地が触れ合わないよう、生地を指刺した串を何本も同時に操って作業を進める。胡粉は、表面にできた気泡を吹き消しながら二度塗りし、巻藁に放射状に差して屋外に並べ、乾燥させる。その後、赤の顔料を膠とともに鍋で溶いて調整し、赤塗りとなる。 赤塗りは、下塗りをしてから乾燥させ、艶を出すためにさらに上塗りをする。その後、製品に合わせて模様や目鼻などの細部を墨や顔料で描いて仕上げとなる。獅子頭や鯛車などの複数の生地からなる赤物は、乾燥後、組立の工程を経て完成となる。 日本の各地において、さまざま郷土玩具・人形の製作が行われているが、土人形や張り子など陶製や和紙から作られるものが多くみられる。そうした中で、この技術は、近世以来の人形の産地である鴻巣市に伝承されてきた練物系統の玩具製作の技術であり、地域的特色が顕著である。大量生産の技術でありながらも、カマガタの製作から彩色まで手間のかかる工程が、伝統的な製法を維持して行われており、製品の形状に合わせて型や技法を巧みに使い分けながら生地を成形するなど、その製作には熟練した技術が必要とされる。 この技術は、子どもの無事な成長を祈願する民間信仰を背景に、関東地方を中心に広く求められ、作られ続けてきた玩具の製作技術として重要であり、また、伝統的な製作技術を有する伝承者を中心に保存会組織も結成されていて、伝承状況も良好である。 (※解説は指定当時のものをもとにしています)