国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
重要無形民俗文化財
主情報
名称
:
球磨神楽
ふりがな
:
くまかぐら
解説表示▶
種別1
:
民俗芸能
種別2
:
神楽
その他参考となるべき事項
:
公開日:毎年10月8日ほか(指定当時・お出掛けの際は該当する市町村教育委員会などにご確認ください)
指定証書番号
:
指定年月日
:
2013.03.12(平成25.03.12)
追加年月日
:
指定基準1
:
(二)芸能の変遷の過程を示すもの
指定基準2
:
(三)地域的特色を示すもの
指定基準3
:
所在都道府県、地域
:
熊本県
所在地
:
保護団体名
:
球磨神楽保存会
解説文:
詳細解説
本件は、直面の舞手が鈴や御幣、剣などを手に持って舞う採物舞【とりものまい】を主体とする神楽で、10月8日の青井【あおい】阿蘇【あそ】神社祭礼の宵宮での奉納を皮切りに、約2ヶ月にわたり、人吉市及び球磨郡内各町村の神社祭礼で奉納される。
演目は17番が伝承され、舞手が獅子頭をつけて舞う「獅子」以外は、全て直面【ひためん】の採物舞である。17番のなかには球磨神楽にしか伝承されていない演目もある。各神社の拝殿を神楽奉納の場とし、太鼓、下部を刳った台状の板であるガクイタ(楽板)、笛の伴奏にあわせ、舞手は回って回り返し、足拍子を軽快に踏み、演目によっては跳躍する所作などを織り交ぜつつ舞う。演目により、一人舞、二人舞、三人舞、四人舞があり、舞手が複数の時には、横一列や縦一列に並んだり、向き合ったりする隊形移動や、対角線上の二人が場所を入れ替わるなどの動きをみせる。舞の途中に挿入される歌には、千載和歌集などからの古歌が多数引用されている。
本件は、ほぼすべての演目が直面の採物舞で、回って回り返す所作を基本とするが、足拍子を多く踏み、複数の舞人による演目では様々に隊形を変えて舞うなど芸態に特色がある。歌には古歌が多数引用され、球磨神楽独特の演目も伝承されている。
また、本件は九州地方に伝承される同種神楽との影響関係や、伝播、発展の過程を考える上で貴重な伝承であり、芸能の変遷の過程や地域的特色を示す重要な伝承である。
(※解説は指定当時のものをもとにしています)
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
解説文
本件は、直面の舞手が鈴や御幣、剣などを手に持って舞う採物舞【とりものまい】を主体とする神楽で、10月8日の青井【あおい】阿蘇【あそ】神社祭礼の宵宮での奉納を皮切りに、約2ヶ月にわたり、人吉市及び球磨郡内各町村の神社祭礼で奉納される。 演目は17番が伝承され、舞手が獅子頭をつけて舞う「獅子」以外は、全て直面【ひためん】の採物舞である。17番のなかには球磨神楽にしか伝承されていない演目もある。各神社の拝殿を神楽奉納の場とし、太鼓、下部を刳った台状の板であるガクイタ(楽板)、笛の伴奏にあわせ、舞手は回って回り返し、足拍子を軽快に踏み、演目によっては跳躍する所作などを織り交ぜつつ舞う。演目により、一人舞、二人舞、三人舞、四人舞があり、舞手が複数の時には、横一列や縦一列に並んだり、向き合ったりする隊形移動や、対角線上の二人が場所を入れ替わるなどの動きをみせる。舞の途中に挿入される歌には、千載和歌集などからの古歌が多数引用されている。 本件は、ほぼすべての演目が直面の採物舞で、回って回り返す所作を基本とするが、足拍子を多く踏み、複数の舞人による演目では様々に隊形を変えて舞うなど芸態に特色がある。歌には古歌が多数引用され、球磨神楽独特の演目も伝承されている。 また、本件は九州地方に伝承される同種神楽との影響関係や、伝播、発展の過程を考える上で貴重な伝承であり、芸能の変遷の過程や地域的特色を示す重要な伝承である。 (※解説は指定当時のものをもとにしています)
詳細解説▶
詳細解説
球磨神楽は、熊本県人吉市及び球磨郡内各町村の神社祭礼で奉納される神楽で、直面(ひためん)の舞手が鈴や御幣、剣などを手に持って舞う採物(とりもの)舞を主体とする。回って回り返す所作を基本とし、足拍子を軽快に踏み、複数の舞手による演目では隊形を様々に変えて舞う。 球磨神楽が伝承されるのは人吉市と球磨郡四町五村で、熊本県南東部、宮崎・鹿児島両県に接し、九州中央山地の脊梁(せきりよう)をなす山々と、球磨川水系が作り出した平地によってなる地域である。神楽伝承の中心である人吉市の青井阿蘇神社は、9世紀初頭に熊本県阿蘇市に所在する阿蘇神社の分霊を勧請したと伝えるが、12世紀の終わり、相良氏が遠江国から人吉庄に入り、やがて地頭となって以降、阿蘇神社との実質的な関係は途絶えたとされる。人吉・球磨地方は中世以降、一貫して相良氏が領主として存続した地域で、青井阿蘇神社は同氏の篤い信仰を得て、同地方の神社の束ねとして位置づけられ独自の宗教的展開を図っていった。このことが、この地方に独自の特色を持つ神楽が発展したことの背景にあると考えられている。 人吉・球磨地方の神楽に関しては、相良氏の年代記である『歴代私鑑』に、相良12代為続が文明4(1472)年、雨乞祈願のため青井宮に神楽を奏させたとあるのが初出とされる。さらに、天文9(1540)年の疫病流行の際には、青井社に数百番の神楽をさせたとあるほか、雨乞や悪鬼退散、病気平癒、諸願成就など、祈願の神楽がたびたび奉納されたことが諸記録に残る。また、現在の球磨神楽に直接結びつく史料としては、安永4(1775)年をはじめとする四冊の『神楽書』が残されている。 現在、球磨神楽は、10月8日の青井阿蘇神社祭礼の宵宮での奉納を皮切りに、人吉市及び球磨郡内各町村の神社祭礼で舞われ、12月15日、水上村の市房山神宮祭礼でその年の神楽奉納を締めくくる。かつては、各神社の神職だけが神楽を演じた。神楽が奉納される神社の神職を中心に、近隣の神職が集まって演じたので、球磨川の上流域、中流域、下流域で微妙な所作の違いが生じ、それが各地域の特色ともなった。大正頃より演じ手が不足するようになり、氏子にも神楽を教えるようになったといい、昭和初期以降、祭礼での神楽奉納に正式に氏子も参加するようになった。さらに、昭和37年には神職と氏子からなる球磨神楽保存会が結成されて、現在に至っている。 球磨神楽は各神社の拝殿で演じられる。ただし、青井阿蘇神社には18世紀中頃の創建とされる神楽殿があり、ここで神楽は奉納される。天井の中央から四隅及び四辺に注連縄が張られ、シデ飾りがつけられる。さらに、太陽と月を象ったとされる円形の作り物と雪舟(ゆきふね)という楕円形の籠状の物が吊されて、「三笠」という演目では二人の舞手が作り物に結ばれた綱をそれぞれ持って絡ませながら舞うほか、控えの者が雪舟を揺らして中に仕込まれた紙吹雪を散らす。これらの飾りをヤツジメと称す。ヤツジメを飾るのは、今は青井阿蘇神社だけであり、「三笠」もここでしか演じない。青井阿蘇神社以外の各社では拝殿で神楽を舞う。人吉・球磨地方の神社社殿は、覆屋の中に建つ本殿と拝殿・神供所(じんくしょ)が鍵の手に並ぶ独特の形式で、拝殿は縦長である。拝殿の本殿に近い部分を舞処(まいど)とし、本殿に向かって神楽を奉納する。 演目は「三番神楽」「大幣(おおべい)」「地割(じわり)」「御酒(ごしい)」「神師(かんすい)」「乙女子(おとめこ)」「田楽(でんがく)」「小幣(こべい)」「扇合(おうぎあわせ)」「三笠(みかさ)」「笛揃(ふえそろい)」「獅子(しし)」「岩潜(いわくぐり)」「振剣(ふりつるぎ)」「棟方(むなかた)」「大小舞(だいしようまい)」「御前(みさき)」の17番が伝承されている。「獅子」は舞人が獅子頭をつけて舞うが、それを除くと全て直面の採物舞である。「三番神楽」は式神楽ともいわれ必ず最初に演じられ、最後は「御前」で終わる。17番全てを奉納するのは青井阿蘇神社のみで、他の神社では、演じ手の人数等に応じて三番神楽と御前の間に挿入する演目が決められる。演目数は奇数が良いとされ、3番、5番、7番あるいは9番を奉納することが多い。 神楽の演じ手には、舞手と楽人がある。楽器は枠付締太鼓とガクイタ(楽板)、笛である。太鼓は横向きに台にのせ、向かって右手の革面を二本の桴で打つ。楽板は下部を刳った台状の板で、太鼓の右横に置き、太鼓の打ち手が太鼓とともに桴で打つ。歌は主に太鼓方が歌い、時に舞手も歌うが、これには千載和歌集などからの古歌が多数引用されている。笛は一人が務めるが、「笛揃」は例外で二人以上で吹く。楽人は舞処の外、本殿に相対する位置に座し、舞手はその後方に控える。 舞は演目により、一人舞、二人舞、三人舞、四人舞がある。舞人が複数の時には、一番先に登場し、神前に向かって右に位置する者をトモドリといい、振りや隊形を変える時のきっかけを与え舞を主導する。いずれの演目も回って回り返し、足拍子を軽快に踏むなどの所作がみられ、「岩潜」「振剣」には両足を揃えて跳躍する動きも見られる。また、複数人による演目では、舞人が横一列や縦一列に並んだり、向き合ったりする隊形移動や、対角線上の二人が場所を入れ替わるなどの動きもある。伝承演目のうち「笛揃」「棟方」「大小舞」は球磨神楽独特の演目とされる。笛揃は四人舞で、ゆったりとした笛にあわせ、扇を揺らしながら舞い、足踏を多く踏む。四人が座して扇を掲げ持つ所作もある。「棟方」と「大小舞」は二人舞で、顔の全面を長い毛で覆い隠し、他演目とは異なる場所から舞処に走り込む。特に大小舞では、照明が消された中での登場となる。神前にうずくまり両手を振り上げて反り返ったり、足を交互に横に上げて飛び上がるような所作をみせる。また、うずくまった舞人の背にもう一人が座るようにして跨ぐ動きも繰り返される。舞人の衣裳は狩衣が多いが、棟方、大小舞では大紋を着る。 (※解説は指定当時のものをもとにしています)