国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
重要無形民俗文化財
主情報
名称
:
阿波の太布製造技術
ふりがな
:
あわのたふせいぞうぎじゅつ
阿波の太布製造技術
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種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
指定証書番号
:
指定年月日
:
2017.03.03(平成29.03.03)
追加年月日
:
指定基準1
:
(三)地域的特色を示すもの
指定基準2
:
指定基準3
:
所在都道府県、地域
:
徳島県
所在地
:
保護団体名
:
阿波太布製造技法保存伝承会
阿波の太布製造技術
解説文:
詳細解説
本件は,徳島県南西部の山間部に位置する那賀町(旧木頭村)に伝承されてきた,コウゾの樹皮から繊維をとり,太布と呼ばれる目の粗い布をつくる技術である。太布は,古代から織られた堅牢な布で,徳島県では,剱山麓の祖谷地方や旧木頭村が主な産地であり,「阿波の太布」の名で古くから知られてきた。その用途は,仕事着を始め,穀物や弁当などを入れる袋,畳の縁などで,丈夫で長期の使用に耐え得る実用衣料として使用されてきた。
太布の製造は,原材料となるコウゾの刈取りを始め,コシキで蒸す,皮を剥ぐ,灰汁で煮る,木槌で叩いてオニカワ(表皮)をとる,河川で晒す,天日で乾燥させるといった樹皮の加工,柔らかくした皮の繊維から糸を績む糸づくりのほか,地機による織りという手間のかかる工程があり,なかでも糸を績む作業は熟練した技術が必要とされる。当地には「太布庵」と称する伝承施設が設けられており,技術の継承が図られている。
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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阿波の太布製造技術
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阿波の太布製造技術
解説文
本件は,徳島県南西部の山間部に位置する那賀町(旧木頭村)に伝承されてきた,コウゾの樹皮から繊維をとり,太布と呼ばれる目の粗い布をつくる技術である。太布は,古代から織られた堅牢な布で,徳島県では,剱山麓の祖谷地方や旧木頭村が主な産地であり,「阿波の太布」の名で古くから知られてきた。その用途は,仕事着を始め,穀物や弁当などを入れる袋,畳の縁などで,丈夫で長期の使用に耐え得る実用衣料として使用されてきた。 太布の製造は,原材料となるコウゾの刈取りを始め,コシキで蒸す,皮を剥ぐ,灰汁で煮る,木槌で叩いてオニカワ(表皮)をとる,河川で晒す,天日で乾燥させるといった樹皮の加工,柔らかくした皮の繊維から糸を績む糸づくりのほか,地機による織りという手間のかかる工程があり,なかでも糸を績む作業は熟練した技術が必要とされる。当地には「太布庵」と称する伝承施設が設けられており,技術の継承が図られている。
詳細解説▶
詳細解説
阿波の太布製造技術は、徳島県那賀郡那賀町の木頭地区に伝承されているコウゾやカジノキの樹皮から繊維をとり、太布と呼ばれる目の粗い布を製造する技術である。 那賀町は、徳島県南部の山間部に位置する。太布の製造技術を伝えている木頭地区は、那珂川の上流となる町域の最奥部、県下最高峰の剱山の南麓に開けた山村であり、旧木頭村にあたる。地区の大部分は山林によって占められ、耕地は僅かであり、杉を中心とする林業と焼畑による農業を主な生業としてきた地域である。 太布は、我が国では古くから織られた堅牢な布で、太綿や荒栲、荒妙などと称された。徳島県では、祖谷地方と旧木頭村が太布の主な産地であり、当地で製造されたものは「阿波の太布」の名で知られてきた。『古語拾遺』や『延喜式』には、阿波国に原材料となる榖が植えられ、阿波忌部が穀から作った織物を大嘗祭に献上しているなど、阿波国が太布の産地であることを示唆する記述がある。また、本居宣長は、随筆集『玉勝間』で、「今の世にも、阿波国に、太布といひて、榖の木の皮を糸にして織れる布有、色白くいとつよし」と阿波でつくられた太布の色合いや丈夫さに言及している。 徳島県における太布の製造は、那賀郡をはじめ、三好郡や美馬郡、旧麻植郡など県西部の山間部で行われてきた。太布が製造されてきた背景には、これらの地域が吉野川流域で生産される阿波和紙の原材料の供給地でもあり、製紙原料として出荷するコウゾの栽培が盛んに行われてきたこともあげられる。明治30年代までは太布で作られた衣服を着ることは日常的であり、大正時代までは、穀物などを入れる太布製の袋が県下のどの家でも使われていたとされる。しかし、昭和以降、太布の製造は衰退の一途をたどり、那賀町の木頭地区にその技術が伝わるのみとなっている。現在は、木頭地区の有志によって結成されている太布製造技法保存伝承会が太布の製造技術を伝承しており、太布庵と称される伝承施設も地区内に設けられていて、一年を通して活動が行なわれ、技術の継承が図られている。 太布の製造は、原材料を刈取り、樹皮を剥いで加工する作業、樹皮を繊維化して均質な糸をつくる作業、織りの作業の3つの工程からなる。木頭地区では、前記の保存伝承会が原材料の栽培も自ら行っているため、これらの工程に先立って、コウゾの栽培、育成から作業が始まる。 木頭地区では、太布の原材料として、天然種のカジノキとヒメコウゾ、近世からの栽培種であるコウゾの三種類がある。現在使われているものは、生産性の高い栽培種のコウゾで、幹の色合いよってアカソとアオソの二種があり、ニカジとも呼ばれる。コウゾは、春先に切り株から発芽して成長するが、6月中旬から8月末までに側枝を止める芽掻きを行う。その後、落葉する冬期を待って1月上旬頃から収穫され、枝のない真っ直ぐに伸びた2~3mほどのコウゾを選んで刈り取る。刈り取ったコウゾは、乾燥して硬くならないうちにコウゾ蒸しの作業に入る。コウゾ蒸しは、荒皮を剥ぎ取るために、コシキと呼ばれる大型の蒸桶と鉄製の平釜を用いてコウゾを蒸す作業で、かつては各家が住居付近に窯を築いて行なっていたが、現在は、那珂川沿いに設けられている共有の蒸し場で行う。蒸し場に運ばれたコウゾは、長い繊維を採取するために短く切り揃えたりせず、中央部を熱湯で温めて折り曲げて適度な分量に束ねてから、下端部を湯を張った釜の中に立て、蒸気が漏れないように釜とコシキとの接触部に藁輪を置いてコシキを被せ、約2時間ほど蒸す。蒸し上がりは、コウゾの青臭い匂いが芳香に変わるのが目安とされる。取り出したコウゾは、水を均一にかけて急激に冷やし、皮を剥ぎやすくする。 皮剥ぎは、コウゾの樹皮を取る作業で、枝の下端から梢の方に向け、荒い皮の部分と木質部とを直角にして剥ぎ取る。剥ぎ取った荒皮は、灰汁で十分に煮てから木槌で叩き、籾殻をまぶして手で揉んだり、足で踏むようしてオニカワと呼ばれる表皮をさらに取り除く。こうして剥いだコウゾの皮は、那珂川の浅瀬に運び、一昼夜流水にさらした後、水からあげて日陰に広げ、数日間凍らせる。こうすることで皮の繊維が軟らかくなるという。その後は、小さな束にして軒下などに下げて乾燥させてから、木槌で叩いてさらに柔らかくする。 次に糸づくりの工程となる。糸づくりは、カジウミと呼ばれる。柔らかくなったコウゾの皮を2~3mmほどに裂いて細かくし、繊維と繊維を継ぎ合せ、親指と人差し指で捻じるようにして時間をかけて1本の糸に績んでいく。績んだ糸は、水に浸して湿してから、糸車にかけて撚りをかける。撚った糸はカセ車にかけ必要な長さに調整した後、再び灰汁で煮て那珂川に運んで二人掛かりで洗う。このときに繊維の捻じれを点検しながら水分をしぼり、硬い糸を真っ直ぐになるよう強く引き伸ばしてから米糠(こめぬか)をまぶし、一昼夜天日で乾燥させる。こうして出来上がった糸は、糸枠に巻いて保管され、織りの作業を待つ。 織りの工程は、整経と地機による機織りの作業である。整経台で経糸の長さと本数を決め、筬の目に糸を通して経巻具のチキリに巻き取ってから、掛糸として木綿糸を経糸に掛けて整経する。経糸はフノリをつけて滑りをよくし、足紐と腰の動きで綜絖を操って上糸・下糸を交互に開口させ、サシコシと呼ばれる杼で緯糸を通し、布組織を織っていく。経糸は切れ易いため、手元には短く績んだ糸を用意し、切れるとすぐに繫いで織り進める。 太布は、着心地や保温性の面では麻や綿に劣るが、丈夫で長期の使用に耐え得る実用衣料として専ら日常生活の中で使用されてきた。仕事着をはじめ、穀物や弁当、山仕事の道具などを入れる袋、畳の縁などに用いられたほか、和三盆糖の搾り袋などにも利用されてきた。布としての性質は、織った当初は質感が粗いが、使い込むうちに繊維が柔らかくなって目が詰まるため、手触りもしなやかになり、色合いも白く、美しくなっていく。