国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
主情報
名称
:
出雲・伯耆の荒神祭
ふりがな
:
いずも・ほうきのこうじんさい
出雲・伯耆の荒神祭
写真一覧▶
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種別1
:
風俗慣習
種別2
:
祭礼(信仰)
その他参考となるべき事項
:
※所在地が2都県以上にわたる広域な選択です。
公開日:毎年11〜12月を中心とした時期(※選択当時・お出掛けの際は該当する市町村教育委員会などにご確認ください)
映像:『出雲の荒神祭』『伯耆の荒神祭』(企画文化庁・制作メディアスコープ・平成26年3月)
選択番号
:
選択年月日
:
2009.03.11(平成21.03.11)
追加年月日
:
選択基準1
:
(一)由来、内容等において我が国民の基盤的な生活文化の特色を示すもので典型的なもの
選択基準2
:
選択基準3
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所在都道府県、地域
:
所在地
:
保護団体名
:
特定せず
出雲・伯耆の荒神祭
解説文:
詳細解説
この行事は、荒神にその年の農作物の収穫を感謝する行事で、主に収穫後の11~12月を中心に行われる。出雲地方ではコウジンマツリ、伯耆地方ではモウシアゲなどと呼ばれる。巨大な藁蛇と大量の幣束を製作し、荒神を祀った木に藁蛇を巻きつけたり、石などに藁蛇を供え、その周囲や藁蛇に幣束を刺すことが多いが、なかには翌年の豊凶を占ったり、藁蛇を隠したりといった形態で行われるところもある。(※解説は選択当時のものをもとにしています)
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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出雲・伯耆の荒神祭
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出雲・伯耆の荒神祭
解説文
この行事は、荒神にその年の農作物の収穫を感謝する行事で、主に収穫後の11~12月を中心に行われる。出雲地方ではコウジンマツリ、伯耆地方ではモウシアゲなどと呼ばれる。巨大な藁蛇と大量の幣束を製作し、荒神を祀った木に藁蛇を巻きつけたり、石などに藁蛇を供え、その周囲や藁蛇に幣束を刺すことが多いが、なかには翌年の豊凶を占ったり、藁蛇を隠したりといった形態で行われるところもある。(※解説は選択当時のものをもとにしています)
詳細解説▶
詳細解説
出雲・伯耆の荒神祭は、島根県東部の出雲地方から鳥取県西部の伯耆地方にかけての地域に濃密に分布する、荒神にその年の収穫を感謝する行事である。 この行事は、毎年収穫後の11月から12月にかけての時期に行われ、巨大な藁蛇と大量の幣束を製作して荒神を祀る樹木や石、祠などに供えるもので、出雲地方ではコウジンマツリ(荒神祭)と呼ばれ、伯耆地方ではモウシアゲ(申し上げ)、タツマキサン(竜巻さん)などと呼ばれている。 例えば、出雲地方にあたる島根県松江市八雲町の桑並地区では11月9日にコウジンマツリを行って収穫に感謝する。桑並地区は桑上、桑中、桑下の3つの組に分かれているが、コウジンマツリは戸数の比較的多い桑中と桑下をさらに2つに分けた5つの区域が輪番制で担当することになっている。当日、その年の当番である区域の各家から1人ずつが志多備神社に集合し、巨大な藁蛇と大量の幣束を製作する。この藁蛇は、クチナワサンと呼ばれ、長さ約40㍍、直径約20㎝にもなり、特に口は約2㍍四方と巨大である。幣束は、長さ1尺2寸のものを144本、オオベイ(大幣)と呼ばれる長さ10尺ほどの幣束を3本製作する。クチナワサンと幣束が完成すると、クチナワサンを右回りにトグロを巻かせて口を大きく開けた状態にして境内に安置し、幣束は口のなかに置く。そしてクチナワサンの前に祭壇を設置して神職が祈祷を行う。その後、神職を先頭に当番全員でクチナワサンを担いで境内にあるスダジイの巨木までもっていき、右回りに2回半巻きつける。この際、クチナワサンの頭は、境内より桑並地区を見下ろすように南西側に向け、スダジイの幹が二又に分かれた部分にのせ、口を大きく開けてオオベイをつかえる。クチナワサンを巻きつけると、当番全員ですべての幣束をクチナワサンの胴体に刺していく。最後に、巻きつけたクチナワサンの前で再び神職が祈祷を行って終了となる。 また、伯耆地方にあたる鳥取県境港市渡町では3・4・6区が合同でタツマキサンを行う。この行事は、もとは12月3日に行われていたが、現在は12月第一日曜日に行われており、タツマキシンジ(竜巻神事)、コウジンコウタツマキ(荒神講竜巻)などとも呼ばれる。行事は、3つの区から4人ずつ選ばれた講当と呼ぶ12人の当番により行われる。講当は年間を通じて荒神を祀る荒神講も担当する。荒神講は、各講当が毎月交代で荒神の厨子を自家の床の間に祀り、月末になると次の講当に厨子を渡す習俗である。タツマキサンの当日は、12人の講当が早朝から日御崎神社に集まる。この際12月に荒神講を担当する講当は、自家から厨子を持参して本殿に安置する。講当は、それぞれ藁を持ち寄って集まると、境内で長さ25㍍ほどの大きな藁蛇を製作する。この藁蛇はタツ(竜)と呼ぶ。タツは、胴体と頭を別々に製作する。頭は、上あごと下あごを別々に製作して組み合わせたもので、口にはミカンをくわえさせる。タツの胴体と頭が完成すると、まず胴体を境内の荒神を祀ったイチョウの大木に下から左回りに7回半巻きつける。そして頭を巻きつけた胴体の一番下に取り付ける。これは荒神が天から降りてきた状況を示しているともいわれる。次いで、巻きつけたタツの前に祭壇を設置して神職が祈祷を行う。祈祷が終わると、神職が準備した12本の幣束を講当が1本ずつ受け取り、1月に荒神講を担当した講当から順にイチョウの木の根元に幣束を刺していき、収穫に感謝して行事が終了する。その後、拝殿で直会があり翌年の講当が指名される。直会終了後、講当は神職の用意した幣束を翌年の講当にもっていく。また、その年の12月に荒神講を担当する講当は、厨子を持ち帰り月末まで床の間で祀る。 中国地方では古くから荒神信仰が盛んで、牛馬の神、農耕の神、土地の神など多様な性格をもって祀られてきている。なかでも出雲から伯耆にかけては、農耕の神としての荒神に巨大な藁蛇と大量の幣束を製作して供え、その年の収穫を感謝する荒神祭が濃厚に伝承されてきた。この荒神祭は、かつてはこの地方のほとんどの地区で行われ、なかには製作した藁蛇を引きずり回したり、子どもが藁蛇を隠したり、荒神を祀る場所に埋めた甕を掘り出し豊凶を占ったりなどといった要素も付随して多様な形態で伝承されていた。しかし、今日、社会構造の変化や過疎化などの影響により、神職の祈祷だけで済ます地区も多くなっており、荒神祭そのものを中断する地区までみられる。 この行事は、我が国における民間信仰、特に収穫感謝に関わる荒神信仰を理解する上で注目されるが、その変容・衰退が著しいことから、早急に記録を作成する必要があるものである。 (※解説は選択当時のものをもとにしています)