国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
主情報
名称
:
吉野大塔の坪杓子製作技術
ふりがな
:
よしのおおとうのつぼしゃくしせいさくぎじゅつ
吉野大塔の坪杓子製作技術
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種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
選択番号
:
選択年月日
:
2012.03.08(平成24.03.08)
追加年月日
:
選択基準1
:
(三)地域的特色を示すもの
選択基準2
:
選択基準3
:
所在都道府県、地域
:
奈良県
所在地
:
保護団体名
:
吉野大塔の坪杓子製作技術保存会
吉野大塔の坪杓子製作技術
解説文:
詳細解説
本件は、吉野地方西部の旧吉野郡大塔村の篠原と惣谷に伝承されてきた坪杓子と呼ばれる杓子を製作する技術である。生木では加工しやすく、乾燥すると堅く腐りにくくなるクリを用い、タマギリ、コマワリ、キドリと原木から粗々の型をとる作業工程を経た後、コヅクリ、テッペーケズリ、ナカウチ、ウチグリ、サメルといった工程で成形した後、乾燥させる。独特の用具を用い、主に感覚だけを頼りとする熟練した技術である。
(※解説は選択当時のものをもとにしています)
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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吉野大塔の坪杓子製作技術
吉野大塔の坪杓子製作技術
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吉野大塔の坪杓子製作技術
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吉野大塔の坪杓子製作技術
解説文
本件は、吉野地方西部の旧吉野郡大塔村の篠原と惣谷に伝承されてきた坪杓子と呼ばれる杓子を製作する技術である。生木では加工しやすく、乾燥すると堅く腐りにくくなるクリを用い、タマギリ、コマワリ、キドリと原木から粗々の型をとる作業工程を経た後、コヅクリ、テッペーケズリ、ナカウチ、ウチグリ、サメルといった工程で成形した後、乾燥させる。独特の用具を用い、主に感覚だけを頼りとする熟練した技術である。 (※解説は選択当時のものをもとにしています)
詳細解説▶
詳細解説
吉野大塔の坪杓子製作技術は、奈良県吉野地方の西部、熊野川最上流域に位置する旧吉野郡大塔村の篠原と惣谷という2つの集落に伝承されてきた坪杓子と呼ばれる、杓子を製作する技術である。 坪杓子とは、掬う部分にツボ(坪)と呼ばれる深い窪みのある杓子で、西日本を中心に茶粥や汁物などを掬う杓子として使用されてきた。この地域で製作されてきた杓子には、坪杓子のほか、飯類をよそう平杓子もあり、平杓子の製作は吉野郡天川村の塩野、塩谷、滝尾、広瀬の4つの集落に伝承されてきた。どちらの杓子製作も、起源ははっきりしないが、篠原の区有文書に、後醍醐天皇より木地物製作を許されたという『御免書』が残されているほか、木地屋発祥の地の1つである滋賀県東近江市蛭谷町の『氏子駈帳』には、弘化3(1846)年と慶応3(1867)年の氏子狩りに篠原が応じた記録があり、弘化3年のものに「往古巻物御綸旨有之杓子仕候」という記載があるように、少なくとも江戸時代後期にはこの地域で杓子製作が行われていたことがわかる。 杓子製作の最盛期は、明治時代から大正時代にかけてで、この時期の坪杓子と平杓子を合わせた製作量は全国一を誇ったとされ、坪杓子だけでも大正14年には年間176,400本を記録している。篠原と惣谷では、粟、稗、黍などの雑穀栽培、川漁、狩猟、山菜採りなどの傍ら、米や塩などの生活必需品を得るための現金収入源として、ほとんどの男性が坪杓子を製作し、山中に小屋をかけて泊まり込みで製作したこともあったという。 坪杓子は、伝統的に4種あり、長い方からエナガ(柄長)、ダイツボ(大坪)、コツボ(小坪)、マメコ(豆こ)といい、現在はダイツボ、コツボに相当する長さ1尺と9寸のものが主流となっている。いずれも生木の状態では加工しやすく、乾燥すると堅く腐りにくくなるクリを用いる。 製作工程は、まず樹齢250年ほどのクリの原木を、坪杓子の長さに合わせて鋸で輪切りにするタマギリ(玉切り)から始まる。 次にタマ(玉)をワリボウチョウ(割包丁)とキヅチ(木槌)を使って縦割りするコマワリ(細割り)を行う。通常、1つのタマから15本程度のワリコマ(割細)がとれる。 次にワリコマをキドリナタ(木取鉈)を使って粗々の型にしていくキドリ(木取り)をする。ここまでが屋外での作業で、山中に泊まり込んだ頃はここまでを山中で行い、キドリしたものをまとめて自家近くの小屋に運んだ。 続いて屋内での作業となり、まず坪杓子の基本的な形を作るコヅクリ(小作り)を行う。コヅクリダイ(小作台)の上に坪杓子をおき、コヅクリボウチョウ(小作包丁)を巧みに使って形を整える。 次にツボの外側をテッペーガンナ(天辺鉋)で滑らかにするテッペーケズリ(天辺削り)、ツボの内側を深く刳るナカウチ(中打ち)、刳ったツボの内側を滑らかにするウチグリ(内刳り)、ツボの縁を滑らかにするサメルと順に行ってツボを仕上げていく。ナカウチではコヅクリダイの端にある窪みにツボを固定し、ナカウチ(中打)と呼ぶ用具でツボの内側を中心より外縁に向かって慎重に刳っていく。次のウチグリでは、両足で杓子をしっかりと固定し、ウチグリガンナ(内刳鉋)でツボの内側を滑らかに仕上げる。ツボを感覚だけで数㎜の厚さにするにはかなりの熟練を要する。また、強度を保つため、ツボの内側中央にヤマ(山)と呼ぶ盛り上がりをつけ、それがこの地域の坪杓子の形態的な特色ともなっている。また、サメルで使うサメボウチョウ(さめ包丁)も独特の用具である。 最後に、ハラアテ(腹当)を着けて坪杓子を当て、セン(銑)で柄を滑らかに仕上げるエーケズリ(柄削り)を行い、10日ほど乾燥させると坪杓子が完成する。こうした一連の工程を一人の職人がほとんど勘だけで行う。 吉野地方では、東部には樽丸林業とも呼ばれた集約的な林業が発達したのに対し、西部には雑木を利用した木工技術が各集落に特色を持った形で伝承されてきた。本件も、そうした木工技術の1つとして地域的特色が顕著であり、独特の用具を用いる熟練した技術を伝えている。我が国の木工技術を考える上でも注目されるが、技術者が激減しており衰退・変容のおそれが高いうえ、詳細な記録も作成されていないことから、早急に記録を作成する必要がある。 (※解説は選択当時のものをもとにしています)