国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
主情報
名称
:
六合入山のネドフミとスゲ細工の技術
ふりがな
:
くにいりやまのねどふみとすげざいくのぎじゅつ
六合入山のネドフミとスゲ細工の技術
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種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
選択番号
:
選択年月日
:
2016.03.02(平成28.03.02)
追加年月日
:
選択基準1
:
(三)地域的特色を示すもの
選択基準2
:
選択基準3
:
所在都道府県、地域
:
群馬県
所在地
:
保護団体名
:
ねどふみの里保存会
六合入山のネドフミとスゲ細工の技術
解説文:
詳細解説
本件は,群馬県吾妻郡中之条町の入山地区に伝承される植物原材料の調整技術とそれを用材とした生活用具の製作技術である。この地域には,ネドフミと呼ばれ,河川に自噴するアルカリ性の温泉にスゲなどの植物を一定期間漬け,繊維を適度な軟らかさに整える技術が伝えられてきた。地区の共有泉のある河原で,川床を掘り下げ,石で囲って湯溜りをつくり,その中に材料となるスゲなどを沈め,10日から2週間ほど漬け込む。その後,天日で乾燥させる。こうして整えた材料を用いて,冬のあいだ,日常生活に使う各種の用具が作られてきた。現在は,ねどふみの里と称する伝承施設を活動の拠点とし,厳冬期を除いて,コンコンゾウリとムシロを中心にスゲ細工が伝承されている。
(※解説は選択当時のものをもとにしています
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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六合入山のネドフミとスゲ細工の技術
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六合入山のネドフミとスゲ細工の技術
解説文
本件は,群馬県吾妻郡中之条町の入山地区に伝承される植物原材料の調整技術とそれを用材とした生活用具の製作技術である。この地域には,ネドフミと呼ばれ,河川に自噴するアルカリ性の温泉にスゲなどの植物を一定期間漬け,繊維を適度な軟らかさに整える技術が伝えられてきた。地区の共有泉のある河原で,川床を掘り下げ,石で囲って湯溜りをつくり,その中に材料となるスゲなどを沈め,10日から2週間ほど漬け込む。その後,天日で乾燥させる。こうして整えた材料を用いて,冬のあいだ,日常生活に使う各種の用具が作られてきた。現在は,ねどふみの里と称する伝承施設を活動の拠点とし,厳冬期を除いて,コンコンゾウリとムシロを中心にスゲ細工が伝承されている。 (※解説は選択当時のものをもとにしています
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詳細解説
六合入山のネドフミとスゲ細工の技術は、群馬県吾妻郡中之条町の入山地区に伝承される植物原材料の調整技術とそれを用材とした生活用具の製作技術である。 中之条町は、群馬県の北西部、長野県と新潟県の県境に位置する。なかでも本技術を伝える入山地区は、旧六合村に属した山村で、林業や畑作、養蚕を主な生業としてきた。当地を源とする白砂川とその支流である長笹川沿いには、尻焼温泉や花敷温泉など川底から湧き出す温泉があり、同郡の草津町とともに温泉地として知られる。 この地域には、ネドフミと呼ばれ、河川に自噴するアルカリ性の温泉に山地に自生するスゲなどの植物を一定期間漬け込み、繊維を適度な軟らかさに整える技術が伝えられている。ネドフミとは、「寝床」や「寝かせる」に由来するネドと、板や石などで押さえることを意味するフミを合わせた呼称であり、温泉の湧きだす場所に材料となる植物を漬け、流れ出ないように処理する作業のことをいう。 ネドフミが行われる場所は、地区の共有泉である。入山地区のうち、和光原・引沼・世立・京塚・田代原の各集落は花敷温泉、根広・長平・小倉の各集落は尻焼温泉の共有泉を使用してきた。しかし、昭和30年代に入り、泉源の観光利用が進むと、花敷温泉でのネドフミができなくなり、その後、昭和60年代になると多くの集落で伝承が途絶えた。現在は、前記の集落のうち根広のみがこの技術を伝えており、平成15年に保存会を結成し、ねどふみの里と呼ばれる民家を改修した伝承施設を集落内に設けて活動している。 ネドフミは、秋に材料を確保し、11月から行われる。材料は、スゲやイワシバ、アワガラ、ミョウガガラなどであるが、主な材料はスゲで、当地ではカヤツリグサ科スゲ属の多年草をさす。材料の採取は、九月頃から始められる。かつては地区の北にあり、スゲが群生する野反湖まで山道を歩き、村をあげてスゲ刈りに通っていたたが、昭和28年のダム建設を境にこの作業ができなくなり、現在は、居住地に近い共有地などで採取している。刈り取ったスゲは、ウラと呼ばれる葉先部分を取り除いて束ね、庭などに扇状に広げて数日間干す。その後、旧暦10月10日の十日夜を目安としてネドフミを行う。十分に乾燥させたスゲは、背負子などを使って河原まで運ぶ。河原に着くと、適度な温泉の湧く場所を選び、川床を掘り下げ、その周囲に石を積んで囲い、湯溜りを作る。これをネドづくりと呼ぶ。この湯の中に材料を入れ、浮き上がらないよう上に板を置き、その上から踏み込んだり、石を載せたりして沈め、10日から2週間ほど漬け込む。スゲは、一定期間湯に漬け込むと色が白くなり、繊維が軟らかくなるとともに丈夫で切れにくくなる。その後、ネドからあげ、1週間ほど天日で乾燥させる。 こうして整えられた材料を用いて、冬の間、日常生活に使う各種の用具が作られてきた。現在は、ねどふみの里において、厳冬期を除き、コンコンゾウリとムシロを中心にミノやカマス、ショイビクなど入山地区で昔から使われてきたものを製作している。スゲ細工は、スゲ縄綯(ぬ)いと呼ばれるスゲ製の細目の縄を作る作業から始まり、これを基本の用材として各種の製品が編まれる。コンコンゾウリは、甲の部分に覆いの付いた履物で、輪にした芯縄を両足の指に掛け、手前の方から交互に材料を芯縄に巻きつけるように編みつけていく。甲の部分は木型を用いて成形しながら編み、踵の部分が仕上がると最後に芯縄を引いて絞り、全体の形状を整えて完成となる。ムシロは、筵機を使って二人一組で編む。縦糸となる麻縄を莚機に掛け、その間にサンゴと呼ばれる先端部が鈎状の棒を使ってスゲを通し、ヒを打ち下ろして編んでいく。また、強度をつけるため、アワガラやミョウガガラを適度に混ぜる。この動作を左右から交互に繰り返し、予定の寸法まで編み上がると莚機から外して麻縄を抜き、耳部分となる余分なスゲを切り取って完成となる。 身近な植物を用いて生活用具を製作することは日本の各地にみられ、その代表的な素材は藁であるが、本件は、稲作が不向きで藁の入手が困難であった山村に伝承されてきた、用材の調整から用具の製作までの一連の技術として注目される。とくにネドフミは、自然の温泉を巧みに利用した民俗技術として全国的にも類例がなく、地域的特色が顕著であるが、時代の推移に伴う生活様式の変化や過疎化の進行によって技術の伝承が難しくなっており、入山地区の中でも本技術を伝えるのは限られた集落になっている。我が国の山間地域における植物利用と生活用具製作の技術を理解する上で注目される。 (※解説は選択当時のものをもとにしています