国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
主情報
名称
:
揖斐川の簗掛け技術
ふりがな
:
いびがわのやなかけぎじゅつ
揖斐川の簗掛け技術
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種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
選択番号
:
選択年月日
:
2016.03.02(平成28.03.02)
追加年月日
:
選択基準1
:
(三)地域的特色を示すもの
選択基準2
:
選択基準3
:
所在都道府県、地域
:
岐阜県
所在地
:
保護団体名
:
揖斐川町簗掛け保存会
揖斐川の簗掛け技術
解説文:
詳細解説
本件は,岐阜県西部を流れる揖斐川にみられる,鮎などの川魚を捕らえる簗を設営する技術である。
簗は,川の一部を堰き止めて導入した水を竹の簾に落とし,簾の上に打ち上げられた魚を捕らえる定置式の漁撈施設で,揖斐川では産卵のため川を下る落ち鮎を主な対象とする。
この地域では,簗を設営することを「簗を掛ける」といい,江戸期には既にみられ,現在も毎年7月頃に掛けられている。
簗は,川の水を引き込んでくるタテ,引き込んだ水をミズタタキに導くソデ,簾を敷いて魚を捕らえるミズタタキの三つの堰から構成され,いずれも大きな丸太と真竹を縦割りしたひごを三角すい状に組んだイノコと呼ばれる巨大な籠を川底に並べ,これに川石や柳の枝を詰めて水を堰き止める形を基本とする。
設営工程は,必要数のイノコを製作した後,ミズタタキ,ソデ,タテの順に堰を製作し,最後にミズタタキに簾を張る。
簗は,8月から10月半ばまで稼働し,漁期が終わるとすべて解体される。
(※解説は選択当時のものをもとにしています)
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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揖斐川の簗掛け技術
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揖斐川の簗掛け技術
解説文
本件は,岐阜県西部を流れる揖斐川にみられる,鮎などの川魚を捕らえる簗を設営する技術である。 簗は,川の一部を堰き止めて導入した水を竹の簾に落とし,簾の上に打ち上げられた魚を捕らえる定置式の漁撈施設で,揖斐川では産卵のため川を下る落ち鮎を主な対象とする。 この地域では,簗を設営することを「簗を掛ける」といい,江戸期には既にみられ,現在も毎年7月頃に掛けられている。 簗は,川の水を引き込んでくるタテ,引き込んだ水をミズタタキに導くソデ,簾を敷いて魚を捕らえるミズタタキの三つの堰から構成され,いずれも大きな丸太と真竹を縦割りしたひごを三角すい状に組んだイノコと呼ばれる巨大な籠を川底に並べ,これに川石や柳の枝を詰めて水を堰き止める形を基本とする。 設営工程は,必要数のイノコを製作した後,ミズタタキ,ソデ,タテの順に堰を製作し,最後にミズタタキに簾を張る。 簗は,8月から10月半ばまで稼働し,漁期が終わるとすべて解体される。 (※解説は選択当時のものをもとにしています)
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詳細解説
揖斐川の簗掛け技術は、鮎などの川魚を捕える簗を設営する技術で、岐阜県の西部を流れる揖斐川の上・中流域にみられる。 簗は、川の一部を堰き止めて導入した水を竹で編んだ簾に落とし、打ち上げられた魚を捕らえる漁撈施設である。揖斐川では簗を設営することを「簗を掛ける」といい、4人ほどの職人が協力して、7月に入る頃から作り始めて1か月ほどで掛ける。 揖斐川の簗漁は、産卵のために川を下る落ち鮎を主な対象とし、現在は毎年8月1日より10月中旬まで行われている。揖斐川の簗は、江戸時代中期には今日とほぼ同様のものが、旗本の岡田家に運上金を支払うかたちで掛けられていたといわれており、今日揖斐川に掛けられている2か所ほどの簗も江戸時代以来の河川利用の権利を引き継いでいるともいわれている。 揖斐川に掛けられる簗は、ミズタタキ、ソデ、タテの3つの堰から構成され、いずれも川底に設置されたイノコと呼ぶ構造物を基礎とする。ミズタタキは、簾を敷いて魚を捕える堰で、簗場とも呼ばれ、川の中央よりやや手前岸寄りに川の流れに平行に製作される。タテは、水を引き込んでくる堰で、ミズタタキの上流部より対岸に向かってやや斜めに製作される。ソデは、引き込んできた流れを変えてミズタタキに水を導く堰で、地形によっては製作されないこともあるが、ミズタタキの下流部より手前岸に向かって川の流れに直角に製作される。 イノコは、檜の丸太の骨組に、真竹を編んだ籠状の構造物で、川の流れを変えたり、水を堰き止めたりする堰の基礎として中に石を詰めて設置される。長さ約3mの丸太に、長さ約1mの丸太2本を又状にして差し込んで三角錐状の骨組を作り、これを覆うように幅約5㎝に縦割した真竹十数本で巧みに編み上げる。製作するイノコの数や大きさは、簗の規模や川の状況に応じ、職人は長年の経験でこれを判断する。 イノコを製作すると、これを用いてミズタタキ、ソデ、タテの順に堰を製作する。まず川底に一定間隔にイノコを並べ、中に川石を詰める。次に隣り合うイノコを丸太を横に渡して結束し、丸太に沿って一定間隔に杭を打ち込んで固定する。最後にイノコの上流側に川石を積み上げ、柳の枝と筵を順にあてて水を遮断する。なお、ソデはミズタタキに渡る通路にもなるため堰の上にも川石や柳の枝を置いて平らにする。 ミズタタキ、ソデ、タテの順に堰を作ると、次にミズタタキに簾を張る。まずオウギと呼ぶ長さ約2mの丸太の一方をイノコに渡した丸太に固定して上流に向けて寝かす。次に、オウギの上流側にタテグイと呼ぶ杭を一定間隔で打ち込み、タテグイの根元にネズを敷く。ネズは、長さ約1m、幅約3㎝の真竹15枚ほどを簾に編んだもので、これを敷いてタテグイの上流側にミズイタと呼ぶ高さ約30㎝の板を立て、ミズイタより上流のネズを浮き上がらないようにウロコ石と呼ぶ扁平な川石で押さえる。この結果、ミズイタを境に上流と下流に段差が生じて水がネズに落ちる形となる。次にオウギに真竹を横に渡し、その上に簾をミズイタの段差に合わせて端から順に敷いていく。簾は、長さ約2m、幅約3㎝の真竹15枚前後を編んだものである。 揖斐川に掛けられる簗は、2か月半ほど稼働し、この間、増水等で破損すると、職人が破損部を適宜補修・交換する。やがて漁期が終わると、すべて解体し、丸太は翌年も利用するため保管し、真竹は焼却する。 本件は、川魚を捕獲する漁撈施設である簗を河川に設営する技術である。我が国の簗は、鮭などの川を上る魚を対象とするものと落ち鮎などの川を下る魚を対象とするものがあり、本件は後者に該当する。江戸時代よりこの地域で盛んに掛けられてきたもので、タテを川の流れに対してやや斜めに作って魚が川の流れに沿って自然にミズタタキまで導かれるように工夫している点、イノコという独特の構造物を製作する点など地域的特色が顕著であり、川の状況に最適な簗の形状や大きさを職人が経験を頼りに決めて巧みに掛ける技術は、我が国の川漁のあり方を考えるうえで注目される。 また、現在各地の河川にみられる簗の多くは、観光目的に近年開始あるいは復活したものが多く、基礎部分を常設としたり、大型機械を用いて設営したりする例も多い。それに対して本件は、江戸時代以来の梁掛け技術を受け継ぐ希少な事例でもある。 (※解説は選択当時のものをもとにしています)