国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
主情報
名称
:
博多鋏の製作技術
ふりがな
:
はかたはさみのせいさくぎじゅつ
博多鋏の製作技術
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種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
選択番号
:
選択年月日
:
2017.03.03(平成29.03.03)
追加年月日
:
選択基準1
:
(三)地域的特色を示すもの
選択基準2
:
選択基準3
:
所在都道府県、地域
:
福岡県
所在地
:
保護団体名
:
博多鋏製作技術保存会
博多鋏の製作技術
解説文:
詳細解説
本件は,鎌倉時代に南宋(なんそう)からの帰化人(きかじん)がもたらしたと伝えられているもので,江戸時代には博多の刀鍛冶が製作するなかで改良が加えられ,明治時代以降,刀鍛冶が鋏鍛冶に特化して今日まで受け継いできた技術である。
製作は,大きく,地切(じぎ)り,ワカシツケ,粗(あら)叩(だた)き,ナラシ,生研(なまと)ぎ,焼き入れ・焼き戻し,本研(ほんと)ぎ,足曲(あしま)げ,カシメという9工程からなり,職人は,これを1人で寸法等をほとんど測らず勘だけで製作する。
地切りは鉄の棒から基本の形状を粗々に作る工程で,続くワカシツケは地金に鋼をつける工程である。粗叩きは全体を整形する工程で,その後,金槌(かなづち)で何度も慎重に叩(たた)きながら刃の絶妙なかみ合わせを調整するナラシを行う。そして生研ぎで凹凸(おうとつ)を削ってから,魔除けともいわれる菱(ひし)紋(もん)などの刻印を打つ。
焼き入れ・焼き戻しは,かみ合う2枚の刃の強度を同じにする工程で,火(ひ)床(どこ)での加熱色を見ながら絶妙なタイミングで水に入れて急冷する。
仕上げに,本研ぎで細かな整形をし,足曲げで持ち手部分を作ってから,最後に目釘(めくぎ)を通して2枚の刃を組み合わせるカシメを行う。
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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博多鋏の製作技術
博多鋏の製作技術
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博多鋏の製作技術
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博多鋏の製作技術
解説文
本件は,鎌倉時代に南宋(なんそう)からの帰化人(きかじん)がもたらしたと伝えられているもので,江戸時代には博多の刀鍛冶が製作するなかで改良が加えられ,明治時代以降,刀鍛冶が鋏鍛冶に特化して今日まで受け継いできた技術である。 製作は,大きく,地切(じぎ)り,ワカシツケ,粗(あら)叩(だた)き,ナラシ,生研(なまと)ぎ,焼き入れ・焼き戻し,本研(ほんと)ぎ,足曲(あしま)げ,カシメという9工程からなり,職人は,これを1人で寸法等をほとんど測らず勘だけで製作する。 地切りは鉄の棒から基本の形状を粗々に作る工程で,続くワカシツケは地金に鋼をつける工程である。粗叩きは全体を整形する工程で,その後,金槌(かなづち)で何度も慎重に叩(たた)きながら刃の絶妙なかみ合わせを調整するナラシを行う。そして生研ぎで凹凸(おうとつ)を削ってから,魔除けともいわれる菱(ひし)紋(もん)などの刻印を打つ。 焼き入れ・焼き戻しは,かみ合う2枚の刃の強度を同じにする工程で,火(ひ)床(どこ)での加熱色を見ながら絶妙なタイミングで水に入れて急冷する。 仕上げに,本研ぎで細かな整形をし,足曲げで持ち手部分を作ってから,最後に目釘(めくぎ)を通して2枚の刃を組み合わせるカシメを行う。
詳細解説▶
詳細解説
我が国で用いられてきた鋏には、支点が刃の根元に位置する元支点式の和鋏と支点が持ち手と刃の中間に位置する中間支点式の洋鋏がある。博多鋏の製作技術は、後者の洋鋏のうち、布を切るための裁ち鋏や切り花用の鋏などを製作する技術として、九州北部、福岡市の中心部である博多区に伝承されてきたものである。 この技術は、鎌倉時代、南宋からの帰化人で貿易商人でもあった謝国明という人物が、製品と製作技術をもたらしたと伝え、その製品は我が国に伝えられた最初の洋鋏で、当時は「唐鋏」と呼ばれたといわれている。 江戸時代になると、博多に居住した刀鍛冶が副業としてこの鋏も製作するようになり、その中でいく度か改良も加えられたとされる。特に、江戸時代末期の天保年間(1830~44)に安河内卯助なる人物が行った改良は現在の博多鋏を完成させたとされており、幕末にはこれを製作する鍛冶職人が10数人いたという。 明治時代以降、明治9年(1876)の廃刀令によって刀鍛冶は鋏製作を中心とした刃物鍛冶となり、博多鋏製造組合が組織され、製品も「博多鋏」と呼ばれるようになった。戦前の最盛期には、博多区内に20軒ほどの鍛冶屋があって年間30万挺あまりを製作し、その販路も西日本を中心に全国に及んだという。 博多鋏は、柔軟かつ強靭な鋏で、持ち手と支点の間に「二の字」や「菱紋」の刻印がある。この刻印は、博多鋏であることを示すと同時に、特に菱紋は魔除けともいわれ、博多鋏を「菱足の鋏」と呼ぶこともある。 博多鋏の製作は、細かく分けると30以上の工程に及ぶともされるが、大きくはジギリ(地切り)、ワカシツケ、アラタダキ(粗叩き)・ナラシ(均し)、ナマトギ(生研ぎ)、ヤキイレ(焼入れ)・ヤキモドシ(焼戻し)、ホントギ(本研ぎ)、アシマゲ(足曲げ)、カシメという8工程で製作される。職人は、これらの一連の作業について寸法や火の温度などを計らずに、ほとんど勘だけを頼りに製作する。 ジギリは、ジドリ(地取り)とも呼ばれ、軟鉄の棒から基本となる形状を粗々に作りながら、地金(じがね)に粘りと硬さをつけていく工程で、地金を火床で熱しながら何度も叩いては伸ばしを繰り返す。こうして作った地金に鋼を接合する鍛接の工程がワカシツケで、地金を火床で熱して加熱色をみながら適当なタイミングを判断して硼砂を振りかけて鋼をのせて金槌で叩いて接合する。 次のアラダタキとナラシは、火床で加熱しながら金槌で叩いて全体を整形する工程で、アラダタキで刃を整形し、ナラシで刃に微妙なひねりをつける。そして出来上がった刃の形状を見て、組み合わせる2枚の刃を決める。 次いでナマトギで、凹凸やはみ出した鋼をヤスリなどで削って滑らかにする。そしてメウチと称して刃の中央付近に穴をあけ、さらに打ち鏨をあてて金槌で叩いて「二の字」や「菱紋」を刻印する。 ヤキイレ・ヤキモドシは、かみ合う2枚の刃の強度を全く同じにするとともに、刃にさらなる強さと粘りをつける工程で、組み合わせる2枚の刃を同時に作業する。火床に刃の部分を入れて加熱してヤキイレをし、部屋を暗くして加熱色の変化を見ながら適切なタイミングで素早く水に入れて急冷するヤキモドシを行う。 ホントギは、細かな凹凸や歪みをヤスリなどで削って修正する工程で、特に刃先の湾曲などを整形するとともに、持ち手となる部分を丸く滑らかに仕上げる。 次いでアシマゲでは、タタキダイ(叩き台)という木製の台にのせてマゲガネ(曲げ金)という用具を利用して持ち手を作る。 最後がカシメで、メウチで開けた穴に目釘を通して2枚の刃を組み合わせ、2枚の刃の摺り合わせが最適になるように金槌で何度も叩いて微調整して博多鋏が完成する。 (※解説は選択当時のものをもとにしています)