国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
主情報
名称
:
大芝の七夕馬製作技術
ふりがな
:
おおしばのたなばたうませいぞうぎじゅつ
七夕馬の製作風景
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種別1
:
民俗技術
種別2
:
生産・生業
その他参考となるべき事項
:
選択番号
:
632
選択年月日
:
2022.03.23(令和4.03.23)
追加年月日
:
選択基準1
:
選択基準2
:
選択基準3
:
(三)地域的特色を示すもの
所在都道府県、地域
:
千葉県
所在地
:
千葉県茂原市大芝
保護団体名
:
大芝地区
七夕馬の製作風景
解説文:
詳細解説
本件は、千葉県東部の茂原市大芝に伝承される、七夕に飾る馬や牛を製作する技術である。カヤカヤ馬とも呼ばれ、大きな馬と小さな牛の一対を一組とする。麦ワラやマコモ、スゲ、ガマ、アオギリなど身近に自生する植物を材料にして丁寧に作られ、とくに馬は、大きな菱形の鬣や染色した飾り房が付くなど、その形状や色遣いに装飾性が高い。
七夕馬は、昭和30年代までは農家の副業として盛んに作られており、大芝の特産品として市内や周辺地域の六斎市で売り買いされていたが、農家の減少や七夕行事の衰退に伴い、作り手の減少や高齢化が進み、変容や消滅のおそれが高くなっており、早急に記録の作成が必要である。
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
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七夕馬の製作風景
七夕馬(完成品・馬と牛)
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七夕馬の製作風景
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七夕馬(完成品・馬と牛)
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解説文
本件は、千葉県東部の茂原市大芝に伝承される、七夕に飾る馬や牛を製作する技術である。カヤカヤ馬とも呼ばれ、大きな馬と小さな牛の一対を一組とする。麦ワラやマコモ、スゲ、ガマ、アオギリなど身近に自生する植物を材料にして丁寧に作られ、とくに馬は、大きな菱形の鬣や染色した飾り房が付くなど、その形状や色遣いに装飾性が高い。 七夕馬は、昭和30年代までは農家の副業として盛んに作られており、大芝の特産品として市内や周辺地域の六斎市で売り買いされていたが、農家の減少や七夕行事の衰退に伴い、作り手の減少や高齢化が進み、変容や消滅のおそれが高くなっており、早急に記録の作成が必要である。
詳細解説▶
詳細解説
大芝の七夕馬製作技術は、千葉県茂原市大芝に伝承される、七夕に飾る馬や牛を製作する技術である。当地の七夕馬は、カヤカヤ馬とも呼ばれ、大きな馬と小さな牛の一対を一組とする。麦ワラやマコモなど身近に自生する植物を材料にして作られ、とくに馬は、大きな鬣や染色した飾り房が付くなど、その形状や色使いに装飾性が高いことが特色である。 茂原市は、千葉県東部の九十九里平野に位置し、古くから農業が盛んである一方、日蓮宗の古刹である藻原寺の門前町として六斎市も盛んで、この地方の農作物や海産物が集散する商業の要衝として発展してきた。 七夕馬づくりを伝承している大芝地区は、市域の南部にあり、畑作を生業としてきた地域である。昭和三十年代までは、地区内に沼や湿地が多く、零細な農業生産を補うため、農家の副業として七夕馬づくりが盛んに行われており、七夕馬は大芝の特産品として、市内や周辺地域の六斎市で売り買いされていた。昭和初期には、三〇戸ほどの集落のほとんどの家が七夕馬づくりに従事し、七夕前の時季には一軒が三〇〇組から六〇〇組を製作しており、大芝産の七夕馬は、茂原はもとより長生郡や夷隅郡などこの地方一帯に広く流通していたとされる。 この地域の七夕は、八月七日を期日とし、早朝に子供たちが七夕馬を引いて草刈りに行く習俗がかつてはみられた。七夕馬を木の台車に載せて野原や田の畔などに引いて行き、草を刈って馬に背負わせ、再び引いて家に戻る。刈ってきた草は玄関前などに敷いてその上に七夕馬を飾り、季節の野菜や赤飯、饅頭などを供え、日頃の農耕に使う牛馬に感謝したという。 七夕馬の製作は、六月頃から材料の採取と加工が始まり、七夕前の七月下旬が繁忙期であった。材料は、麦ワラやマコモ、ガマ、スゲ、アオギリ、シュロ、マダケなどで、地区内を中心に自生地から採取し、天日に干したり、水に浸け置いて細かい繊維に裂いたりして準備しておく。こうした材料の手配と六斎市での販売は、男性の仕事で、一方、七夕馬の製作は、主に女性の仕事とされ、男女での役割分担があった。 七夕馬は、四〇センチメートルから五〇センチメートル程の大きさで、麦ワラで馬の胴と足の芯を作ることから始める。胴の芯は、麦ワラを長く束ね、一頭分の胴の長さとなる二〇センチメートル程の間隔で包丁で切り分け、直径一〇センチメートル程の円筒形の束を一〇頭分ほど一度に作る。足の芯は、麦ワラを三センチメートルほどの太さに束ねて四本作る。次に馬の頭と首を長くて良質な緑色のマコモで作る。頭は、マコモを一〇本程束ねて二つに折り、折り曲げた部分を下にして口とし、上部を二等分して耳にする。さらに両耳にマコモの束を折り曲げて差し込み、下に曲げて交互に編んで首を作る。麦ワラやマコモの結束には、肉厚で丈夫なガマの葉を使い、とくに強度が必要な首の根元には、柔軟で切れにくいシュロの葉を用いる。なお、結び目は、竹のへらなどで中に押し込み、目立たないように処理する。胴と足の芯、頭部が完成するとそれらを組み合わせる。首の角度を整え、胴と足をマコモで覆って外観を良くし、胴の中央に赤紫色のスゲを巻き付けて装飾する。胴の後ろに突き出たマコモは、切り揃えて尾とする。 次いで、耳元から首にかけて菱型状にマコモを編み付けて鬣とし、マコモが交差する箇所を紅で染めたアオギリの繊維で結んで装飾する。そして、最後に飾り房を付ける。飾り房は、マダケの切り口を金槌で叩いて繊維状にし、赤や緑、黄などの色に染めたもので、馬の首や尾の両脇に付けて完成となる。一方、牛は、馬に比べて簡単な作りで、大きさも馬の半分程度である。マコモの束を捻りながら二つに折り曲げ、曲げた部分を牛の頭とし、胴の芯を入れて、前足を付ける。後足は、折り曲げたマコモの残りの部分を下に曲げ、左右に二等分して整える。頭にはマコモを二本差して角とし、口先にマコモで綯った細い縄で鼻輪を付ける。最後に尾をマコモの縄で作る。 なお、当地の七夕馬の製作技術は、農家の減少や七夕行事の衰退に伴って一度途絶え、昭和五十八年(一九八三)に大芝地区の有志が復活させ、技術の継承に努めてきたが、作り手の減少や高齢化が進んでいる。