国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財
主情報
名称
:
オンバサマのお召し替え
ふりがな
:
おんばさまのおめしかえ
選択1_女性たちによるお召し替え1
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種別1
:
風俗慣習
種別2
:
祭礼(信仰)
その他参考となるべき事項
:
・公開日
毎年3月13日
・解説文中の「ウバ」の字は異体字(女偏、旁は田の字を三俵重ね)
選択番号
:
635
選択年月日
:
2024.03.21(令和6.03.21)
追加年月日
:
選択基準1
:
(一)由来、内容等において我が国民の基盤的な生活文化の特色を示すもので典型的なもの
選択基準2
:
選択基準3
:
所在都道府県、地域
:
富山県
所在地
:
富山県中新川郡立山町芦峅寺
保護団体名
:
芦峅女性の会
選択1_女性たちによるお召し替え1
解説文:
詳細解説
本件は、富山県の立山山麓にある芦峅寺地区の女性たちが年に一度、「お召し替え」と称して、閻魔堂に祀られるウバ尊像の着衣を着せ替える行事である。ウバ尊像は、当地では「オンバサマ」と呼ばれ、女性の守り神、衣食の恵みをもたらす山の神として、また、亡者の衣を剥ぎ取り、その軽重で罪を量る奪衣婆としても信仰されてきた。オンバサマの着物は、地区の女性たちによって、白い木綿布で死装束として新しく仕立てられ、オンバサマ一体一体に丁寧に着せられる。
関連情報
(情報の有無)
添付ファイル
なし
写真一覧
選択1_女性たちによるお召し替え1
選択1_女性たちによるお召し替え2
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選択1_女性たちによるお召し替え2
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解説文
本件は、富山県の立山山麓にある芦峅寺地区の女性たちが年に一度、「お召し替え」と称して、閻魔堂に祀られるウバ尊像の着衣を着せ替える行事である。ウバ尊像は、当地では「オンバサマ」と呼ばれ、女性の守り神、衣食の恵みをもたらす山の神として、また、亡者の衣を剥ぎ取り、その軽重で罪を量る奪衣婆としても信仰されてきた。オンバサマの着物は、地区の女性たちによって、白い木綿布で死装束として新しく仕立てられ、オンバサマ一体一体に丁寧に着せられる。
詳細解説▶
詳細解説
オンバサマのお召し替えは、立山信仰を基調とする、「オンバサマ」と呼ばれるウバ尊像の着物を一年に一度、新調して着せ替える行事である。 立山は、北陸地方を代表する霊山として知られ、主峰の雄山を極楽浄土、山中の地獄谷を地獄に見立てる立山信仰が全国にひろまった。生前に立山登拝することにより死後の極楽往生が約束されるといわれ、全国各地から登拝者が訪れたが、明治時代までの立山は女人禁制で、女性の入山が許されなかった。 立山の登山口に位置する芦峅寺地区は、古くから狩猟や木挽きなどの山仕事や焼き畑を行う農業を生業とし、江戸時代には宿坊が立ち並ぶ立山登拝の拠点集落として栄えた。同地区を流れるウバ谷川は、水の恵みをもたらす生活の川である一方、集落と異界の山とを隔てる三途の川に見立てられ、この川を境に女人結界とされていた。川の対岸には、かつてウバ堂があり、老婆の姿をした69体のウバ尊像が、呪術的な「ウバ」の字に象徴される五穀豊穣の水分神や立山から降臨した山の神として、また、亡者の衣を剥ぎ取りその軽重で罪を量る奪衣婆として祀られていた。明治時代になるとウバ堂が失われ、大半のウバ尊像は四散し、数体残った像は、現在、同地区内の閻魔堂に安置されている。同地区の女性たちは、ウバ尊を親しみを込めて「オンバサマ」と呼び、女性の守り神として信仰し、同地区に住む成人女性たちで組織される芦峅女性の会が、毎年、オンバサマの新しい装束をつくり、お召し替えを行っている。 行事は、お召し衣と呼ばれるオンバサマの白装束を製作することから始まる。当日の朝、参加する女性たちが閻魔堂に集まり、堂内の清掃を行ない、ろうそくや供物などを供えた後、お召し衣の製作に取り掛かる。お召し衣の生地は、明治時代以前には立山に自生する苧麻を用いて、還暦を過ぎた女性たちが精進潔斎して糸をとり、白麻の反物を織りあげて製作されたといわれるが、現在は晒木綿を使用している。オンバサマの寸法はそれぞれ異なり、一つ一つ型紙があり、木綿布を裁断する工程から始めていたが、近年は当日までに裁断作業を済ませて持ち寄る。女性たちは数名ずつに分かれて座り、像ごとに着物の袖や共襟などの部位の生地を仕分けし、型紙に倣って待ち針を打ち、よく準備を整えたうえで縫製に取り掛かる。お召し衣を縫う際は、一本の長い糸を用いて一人ひと針ずつ縫い、順番に受け渡しながら、玉止めや返し縫いを施さず縫い放しとし、端も裁ち放しのままにして、死者に着せる死装束に仕立てる。このほか、同様に着物の帯と像の頭に被せる三角の天冠も製作し、新しいお召し衣の完成となる。 お召し衣が完成すると、同地区内の雄山神社境内にある開山堂での儀礼となる。新しいお召し衣を折りたたんで像ごとに揃え、白木の衣装箱に入れて風呂敷で包み、閻魔堂を出る。女性たちは触れ太鼓を先導に行列を組んで開山堂へ向かい、お召し衣を立山の開山者に奉納した後、再び閻魔堂へ持ち帰り、お召し替えとなる。閻魔堂に着くと、女性たちは手分けしてオンバサマのお召し衣の着せ替えをとり行う。オンバサマの古い着物を一体ずつ丁寧に脱がせた後、新しいお召し衣を死者に着せるのと同様に左衽に着せ、帯を前側で結び、像の頭には天冠を被せ、首に輪袈裟を掛けて、炊き立ての米飯を供えて、お召し替えは完了する。 なお、オンバサマのお召し衣を清浄な死装束に仕立て、着せ替える行為は、お召し衣を女性たち自身の死後の着物に見立ててオンバサマに前渡しして預け置き、後世の安寧を願うためともいわれている。