国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
史跡名勝天然記念物
主情報
名称
:
甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落
ふりがな
:
こしきしまながめのはまおよびせきこぐんのしょくぶつぐんらく
甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(全景)
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種別1
:
天然記念物
種別2
:
時代
:
年代
:
西暦
:
面積
:
1078042.52 m
2
その他参考となるべき事項
:
告示番号
:
40
特別区分
:
特別以外
指定年月日
:
2015.03.10(平成27.03.10)
特別指定年月日
:
追加年月日
:
指定基準
:
所在都道府県
:
鹿児島県
所在地(市区町村)
:
鹿児島県薩摩川内市
保管施設の名称
:
所有者種別
:
所有者名
:
管理団体・管理責任者名
:
甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(全景)
解説文:
詳細解説
長目の浜は2代薩摩藩主(さつまはんしゅ)島津光久(しまづみつひさ)が「眺めの浜」と呼んだことが由来とされ,上甑島(かみこしきしま)北部で北から南東方向に伸びる,長さ4km,幅40~100mの砂州(さす)が発達してできた浜である。上甑島北部にはこの砂州により形成された潟湖群(せきこぐん)(海跡湖(かいせきこ)群)が分布している。指定対象は,長目の浜と,北から続く海鼠池(なまこいけ),貝池(かいいけ),鍬崎池(くわざきいけ)の3湖沼,砂州上の植物群落である。
砂州上では季節風の影響を受け,北西部から風衝草原(ふうしょうそうげん),風衝低木林(ふうしょうていぼくりん),低木林と変化している。また,砂州上に堆積している砂礫の大きさが北側から南東に向かって小さくなり,海水の透水性の違いで海鼠池,貝池,鍬崎池の順に塩分濃度が低下し,植せ生もそれに対応して変化している。海鼠池は干満差や塩分濃度が高く,汀線際にはハマボウ群落を含む汽水域(きすいいき)植生,その背後の砂州上には,ウバメガシ群落等の風衝低木群落が発達する。貝池では泥湿地植生,風衝低木林等が発達している。湖内には嫌気性光合成細菌(けんきせいこうごうせいさいきん)であるクロマチウムが生育し注目されている。鍬崎池は干満差がなく,塩分濃度も低く,抽水(ちゅうすい)植物群落,湿性地植生が発達し,希少なハマナツメ群落等の低木林も成立している。このような砂州上に発達した植物群落は全国的にも少なく,性質の異なった三つの潟湖群とともに学術上貴重である。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
写真一覧
甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(全景)
甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(近景)
甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(風衝低木林 海鼠池の海岸部)
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甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(全景)
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甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(近景)
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甑島長目の浜及び潟湖群の植物群落(風衝低木林 海鼠池の海岸部)
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解説文
長目の浜は2代薩摩藩主(さつまはんしゅ)島津光久(しまづみつひさ)が「眺めの浜」と呼んだことが由来とされ,上甑島(かみこしきしま)北部で北から南東方向に伸びる,長さ4km,幅40~100mの砂州(さす)が発達してできた浜である。上甑島北部にはこの砂州により形成された潟湖群(せきこぐん)(海跡湖(かいせきこ)群)が分布している。指定対象は,長目の浜と,北から続く海鼠池(なまこいけ),貝池(かいいけ),鍬崎池(くわざきいけ)の3湖沼,砂州上の植物群落である。 砂州上では季節風の影響を受け,北西部から風衝草原(ふうしょうそうげん),風衝低木林(ふうしょうていぼくりん),低木林と変化している。また,砂州上に堆積している砂礫の大きさが北側から南東に向かって小さくなり,海水の透水性の違いで海鼠池,貝池,鍬崎池の順に塩分濃度が低下し,植せ生もそれに対応して変化している。海鼠池は干満差や塩分濃度が高く,汀線際にはハマボウ群落を含む汽水域(きすいいき)植生,その背後の砂州上には,ウバメガシ群落等の風衝低木群落が発達する。貝池では泥湿地植生,風衝低木林等が発達している。湖内には嫌気性光合成細菌(けんきせいこうごうせいさいきん)であるクロマチウムが生育し注目されている。鍬崎池は干満差がなく,塩分濃度も低く,抽水(ちゅうすい)植物群落,湿性地植生が発達し,希少なハマナツメ群落等の低木林も成立している。このような砂州上に発達した植物群落は全国的にも少なく,性質の異なった三つの潟湖群とともに学術上貴重である。
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詳細解説
指定対象は砂州(さす)によって形成された潟湖群(せきこぐん)(海跡湖群(かいせきこぐん))と砂州上に発達した植物群落である。 甑島は鹿児島県の西の東シナ海にあり、上甑島(かみこしきしま)、中甑島(なかこしきしま)、下甑島(しもこしきしま)の3島から構成される。上甑島北部には砂州が発達したできた浜で、2代薩摩藩主(さつまはんしゅ)島津光久(しまづみつひさ)が「眺(なが)めの浜」と呼んだことが由来とされる長目の浜がある。長目の浜は長さ4km、幅40~100mで北から南東方向に向かって伸びており、この砂州により潟湖群が形成されている。潟湖群は北の方から海鼠池(なまこいけ)(面積0.52k㎡、最大水深26.4m)、貝池(かいいけ)(0.16k㎡、11.6m)、鍬崎池(くわざきいけ)(0.14k㎡、5.9m)と、少し離れた須口池(すぐちいけ)(0.1k㎡、0.4m)とがある。対象地域は長目の浜と長目の浜に接する海鼠池、貝池、鍬崎池の3つの水域である。 長目の浜は北側からの波食(はしょく)により海食崖(かいしょくがい)が崩落することで供給された礫(れき)を含む多量の土砂が、南東向きの沿岸漂砂(えんがんひょうさ)により島に沿って輸送され堆積した結果、形成されたと考えられている。長目の浜の砂州は、直径が3~30cm前後の円礫(えんれき)が堆積してできたもので、北側ほど円礫が大きく海鼠池では1mを越えるものが見つかる。海水の透水性が礫の大きさに比例し、すべて汽水湖といっても海鼠池、貝池、鍬崎池の順に塩分濃度が低下する。 海鼠池に直接流入する河川はないが、地下水の湧水があり、周辺からの雨水と相まって汽水湖(塩分濃度2.5~3.3%)になっている。周辺には居住地もなく水質も良好で、名の由来となっているマナマコが生育している。貝池も汽水湖(塩分濃度1.5~3.3%)で浅水部に汽水性のアサリが多数生育し、この名前がついた。水深4mの中層部より下は上部と混じらない海水層があり、嫌気性光合成細菌(けんきせいこうごうせいさいきん)のクロマチウム(紅色硫黄細菌(こうしょくいおうさいきん))が層をつくり生育し、水深5m以下では無酸素状態といわれる。この細菌は世界的にも生育は数ヵ所しかないといわれている。鍬崎池はほとんど海水の出入りがない汽水湖(塩分濃度0.1~0.4%)で、周辺からの雨水や地下水等の淡水で満たされている。それぞれの湖沼で塩分濃度が異なることから、湖沼周辺での植生分布もそれに応じて変化している。 砂州では、北西から南東に向かって強い季節風があり、対象地域の北西側の風当たりが強く、一部に風衝草原(ふうしょうそうげん)が形成されるが、砂州上はほとんど風衝低木林(ふうしょうていぼくりん)の群落となる。風衝低木林としてはウバメガシを中心とした群落が発達しており、貝池と鍬崎池との接続部などの表土が薄い部分ではマサキ-トベラ群集が見られる。鍬崎池の中央から南東側には湿性林のハマナツメ群落が300mにわたって続いており、ハマナツメ群落としては日本最大級のものとなっている。 砂州の外海側(そとうみがわ)は狭いながらも全体にわたり海浜植物群落が帯状構造(たいじょうこうぞう)を形成している。一方、湖沼側の植物群落は、3湖沼で異なった植生が見られる。海鼠池では干満の差が大きく塩分濃度が高いことから、河口域と同様の植生となり、汀線際(ていせんぎわ)では冠水を定期的に受け、ナガミオニシバやシオクグ、ヨシなどの群落、大潮の時など希に冠水を受ける場所ではアイアシなどの群落が続き、その背後にハマボウなどの低木群落が発達する。一部には風衝草原であるタイトゴメ、ツメレンゲなどの群落も見られる。貝池では、海鼠池と比較して干満の差は少ないため、泥湿地(でいしっち)部分が広くなる。このため、ヨシやヒトモトススキなどの泥湿地植物群落が発達し、背後のハマボウ群落の規模は大きくなる。鍬崎池では干満の差はほとんど発生しないため、池から砂州に向かって抽水植物(ちゅうすいしょくぶつ)のヨシ、フトイ、シチトウイなどの群落、池辺には湿性地(しっせいち)群落などが発達する。 これらの植物群落では希少な植物も分布している。環境省の絶滅危惧植物に該当する種として、ハマナツメ(絶滅危惧II類(VU))、カノコユリ(絶滅危惧II類(VU))、ツメレンゲ(準絶滅危惧(NT))、リュウノヒゲモ(準絶滅危惧(NT))などがある。また甑島が分布の南限や中心に当たる等、分布上重要な植物として上記の種の他、サツマノギク、アキノミチヤナギがある。 礫で構成された砂州は希少で、その上に発達した植物群落は全国的にも少なく、性質の異なった3つの潟湖群とともに学術的に貴重であることから、天然記念物に指定し保護を図るものである。