国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
重要文化的景観
主情報
名称
:
別府の湯けむり・温泉地景観
ふりがな
:
べっぷのゆけむり・おんせんちけいかん
鉄輪全景
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種別1
:
重要文化的景観
種別2
:
面積
:
その他参考となるべき事項
:
選定番号
:
選定年月日
:
2012.09.19(平成24.09.19)
追加年月日
:
選定基準
:
所在都道府県
:
大分県
所在地(市区町村)
:
鉄輪全景
解説文:
詳細解説
豊富な温泉資源を活用し、共同浴場や地獄釜の蒸し料理といった生活、貸間・旅館などの宿泊業や湯の花製造業といった生業を成立させてきた、当地の土地利用の在り方を示す文化的景観として貴重である。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
写真一覧
鉄輪全景
貸間旅館
地獄釜
湯の花製造小屋
写真一覧
鉄輪全景
写真一覧
貸間旅館
写真一覧
地獄釜
写真一覧
湯の花製造小屋
解説文
豊富な温泉資源を活用し、共同浴場や地獄釜の蒸し料理といった生活、貸間・旅館などの宿泊業や湯の花製造業といった生業を成立させてきた、当地の土地利用の在り方を示す文化的景観として貴重である。
詳細解説▶
詳細解説
別府市の西部には、鶴見(つるみ)岳(だけ)(標高1,375メートル)を主座として、大平山(おおひらやま)(標高792メートル。別名「扇山(おうぎやま)」ともいう。)などの新生代第四紀火山群が南北に連なり、東部の別府湾に向けて広がる火山麓扇状地上に市街地が展開する。市街地背後の急斜面地にはスダジイ・タブノキ群落を中心とする照葉樹林が発達するほか、酸性度の強い土壌にはケツクシテンツキ群落など火山地形に特徴的な植生が見られる。 別府古来の自然湧出泉による温泉地は「別府八湯(はっとう)」と総称され、その中でも鉄輪(かんなわ)温泉は湧出量・泉源数ともに最大を誇る別府の中心温泉地であり、明礬(みょうばん)温泉は湯の花の生産地として著名である。これらの地域では、温泉水又は温泉蒸気を活用した生活・生業が営まれており、扇状地のあちこちから立ち上る「湯けむり」の下で、温泉資源を利用した独特の文化的景観が形成されている。 別府では、高温の地熱により大量の熱水・水蒸気が生成されており、現在も泉源数は2,307か所、温泉採取量は毎分87,486リットルと全国有数の規模を誇る。古くは自然湧出泉を利用していたが、近代になると、掘り抜き自噴式井戸の鑿井技術である「上総掘り」が伝わり、明治中期からは利用可能な泉源数が飛躍的に増大した。現在は機械掘りによる動力泉が多いが、温泉法等の制限により泉源数・採取量ともに一定している。また、泉源から汲み上げられる温泉水は、高温の水蒸気と一体となっており、そのまま利用することができない。そのため、気液分離装置によって温泉水と水蒸気とを分離させ、温泉水は配管を通じて浴場・家庭へ、水蒸気は排気管を通じて空中高くへと放出される。高温かつ高密度な噴気は、比較的低温多湿な別府の気候により、白く立ち上る多くの湯けむりを発生させる。 別府の温泉利用に関する記述は、8世紀前半に作成された『豊後国(ぶんごのくに)風土記(ふどき)』に遡るが、湯治場・温泉療養の地として認知されるのは中世以降のこととされている。近世後期までは農閑期を中心に周辺地域からの湯治客を集めたが、近代になると、別府港の築港に伴い関西・瀬戸内方面からの来訪客が増えた。さらに、鉄道・道路の整備により「地獄」巡りを目的とする観光客も増加し、別府は一大観光都市へと発展した。近世の旅籠・木賃宿に起源を持つ宿泊業は現在も旅館・貸間として継続しているほか、近隣住民が組合制の下に管理・運営している共同浴場及びオンドル方式に基づく暖房設備等とともに、地域生活における温泉水の利用は盛んである。 温泉蒸気も様々に利用されてきた。近世までの入浴方式は一般に蒸し風呂であり、弘化2年(1845)の『鶴見(つるみ)七湯廼記(しちとうのき)』には、温泉蒸気を活用して「地獄(じごく)釜(がま)」で作る蒸し料理が記録されている。また、明礬温泉は、近世以降、「豊後明礬」の生産地として知られ、止血剤・媒染剤・皮革のなめし剤として利用された。明治になると自然災害及び安価な輸入品の増加により明礬生産は大幅に縮小したが、明礬の半製品を入浴剤である「湯の花」として販売するようになった。湯の花の製造は、石敷きの床に青粘土を敷き詰めた藁葺き屋根の小屋で行われており、その伝統的な製造技術は今なお継承されている。 明治・大正期に別府が観光都市として発展するのに伴い、鳥瞰図絵師の吉田初三郎による別府温泉の案内図など、数多くの宣伝のための材料が作成された。その一つが絵はがき類であり、泉源数が増え盛んに湯けむりが立ち上るようになった旅館街等が描写された。昭和初期には、俳人の高浜虚子など多くの文人の作品にも湯けむりが記述された。昭和30年代に気液分離装置の利用が普及すると、湯けむりは扇状地上の随所から高く立ち上るようになり、現在も絵画・写真・映画等の題材に数多く用いられるなど、別府における生活・生業の在り方を象徴するものとして広く認識されている。 以上のように、別府では、鉄輪温泉・明礬温泉を中心に、共同浴場又は地獄釜の蒸し料理など生活における温泉資源の活用のみならず、宿泊業又は湯の花製造業などの固有の生業を成立させてきた温泉地における土地利用の在り方を示す文化的景観が形成されている。別府は日本を代表する温泉地であり、その湯けむり景観は生活・生業における多面的な温泉資源の利用形態を象徴する文化的景観であることから、重要文化的景観に選定し、その保存・活用を図るものである。