国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
重要文化的景観
主情報
名称
:
阿蘇の文化的景観
阿蘇北外輪山及び中央火口丘群の草原景観
ふりがな
:
あそのぶんかてきけいかん
あそきたがいりんざんおよびちゅうおうかこうきゅうぐんのそうげんけいかん
地図表示▶
解説表示▶
種別1
:
重要文化的景観
種別2
:
面積
:
612.6 ha
その他参考となるべき事項
:
選定番号
:
選定年月日
:
2017.10.13(平成29.10.13)
追加年月日
:
2023.03.20(令和5.03.20)
選定基準
:
所在都道府県
:
熊本県
所在地(市区町村)
:
熊本県阿蘇市
解説文:
詳細解説
阿蘇カルデラ北部に位置する阿蘇市には,阿蘇谷の平地及び中央火口丘北斜面,北外輪山及びその斜面が含まれる。歴史的に平地は居住地及び耕作地,斜面は林地,中央火口丘・外輪山上は草地として利用されてきた。阿蘇地方北外輪山の典型的な草地景観である。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
Loading
Zeom Level
Zoom Mode
解説文
阿蘇カルデラ北部に位置する阿蘇市には,阿蘇谷の平地及び中央火口丘北斜面,北外輪山及びその斜面が含まれる。歴史的に平地は居住地及び耕作地,斜面は林地,中央火口丘・外輪山上は草地として利用されてきた。阿蘇地方北外輪山の典型的な草地景観である。
詳細解説▶
詳細解説
九州の内陸ほぼ中央に位置する阿蘇火山は、南北約25km、東西約18km、面積約38k㎡のカルデラ地形を有する。カルデラ地形は、約27万年前から約9万年前に流出した計4回の火砕流噴火によって形成された中央火口丘・カルデラ床・外輪山からなり、中央火口丘に位置する中岳は我が国を代表する活火山である。 阿蘇市は、カルデラ床である阿蘇谷の平地を中心として、北外輪山、外輪山東部の台地、中央火口丘の北斜面に広がる。阿蘇谷の平地では、黒川が蛇行してゆっくりと西流し、被圧地下水が各所で自噴するため、水資源に恵まれている一方、火山灰等からなる酸性土砂が厚く堆積しているため、湿地性で水はけの悪い土壌が広がっている。 阿蘇市では、北外輪山及び中央火口丘の北斜面に大規模な草地が広がり、それぞれ阿蘇谷の平地へ向けて下るにつれて斜面は林地、山裾は居住地、平地は耕作地が広がっている。 平安時代の『延喜式』に阿蘇での馬生産を示す「牧」の記述があるように、阿蘇の草地は、千年以上にわたり、牛馬の放牧及び飼料用の草を得る場、耕作地に施す緑肥及びたい肥を供給する場、時には居住地の家屋の屋根及び生活用具の材料を供給する場等として継続的に利用されてきた。採草には、標高約500mの山裾にある居住地から標高約800mの山上にある草地へ徒歩で往復して作業する必要があったため、斜面地には「草の道」と呼ばれる細い作業道が分布しているほか、作業期間に家族が草地で「草泊まり」として野営した習慣が伝えられている。このような草地を軸として、地形に沿って垂直方向に変化する土地利用及び景観は、阿蘇地域の自然風土に適応した生活又は生業によって歴史的に形成されてきたものである。 草地では、毎年の採草・火入れ・放牧が継続されてきたため、草地環境のみで生き残るヒゴタイ・ヤツシロソウ・ハナシノブ等の大陸系遺存植物が生息するネザサ・ススキ群落、シバ群落の草地が広がっており、全国的にも貴重な生態系が育まれている。 阿蘇地方には、健(たけ)磐(いわ)龍(たつの)命(みこと)にまつわる神話・伝承及びゆかりの地が多く分布する。阿蘇谷内にある阿蘇神社はその中心であり、広い境内には楼門及び神殿等の荘厳な木造建造物群が並ぶ。歴史的には火山信仰及び阿蘇谷の農業開拓神等を信仰対象とし、現在でも例祭の御田(おんだ)祭(さい)、田作(たづくり)祭(さい)、田(た)の実(み)神事の流鏑馬(やぶさめ)等の農耕神事が継承されている。また、阿蘇神社の西方に位置する霜神社では、少女が火焚殿(ひたきでん)にこもって焚き木を燃やし続けて霜除けの祈願を行う火焚き神事が継承されており、これらの農耕に関する神事から、阿蘇の気候風土と生活又は生業が密接な関係を有してきたことが理解できる。 江戸時代の熊本藩の参勤交代道であった豊後街道が阿蘇谷を東西に通過しており、健磐龍命が外輪山を蹴り崩そうとしても二重になっていて破れなかったという伝承が残る「二重(ふたえの)峠(とうげ)」地区、同様に弓の稽古をする時に的にしたという伝承をもつ「的(まと)石(いし)」地区が沿道にあり、それぞれ往時の石畳や藩主の休憩場所とされた茶屋跡が残り、往時の景観を窺い知ることができる。 近年の草地は、地域の牧野組合が中心となり、秋に草を刈って防火帯を作る「輪(わ)地(じ)切り」及び早春に枯れた草を焼き払う「野焼き」によって維持されているが、担い手の確保が課題となっている。平成17年(2005)からは、自然再生法に基づいて関係行政機関、地域住民、牧野組合員、NPO、専門家等によって「阿蘇草原再生協議会」が組織され、国立公園管理団体である「(公財)阿蘇グリーンストック」とともに、草地を維持再生する募金活動及びボランティア活動が継続的に行われている。 阿蘇神社参道沿いの商店街では、平成4年(1992)「阿蘇一の宮門前町会」が設立され、阿蘇谷の豊富な湧水を活用した商店街整備等の自主的な取り組みが継続的に実施されており、景観保全及び地域活性化が図られている。 阿蘇の文化的景観は、広大な阿蘇のカルデラ地形に沿った土地利用を継続的に行ってきたために形成された草地・林地・居住地・耕作地が一体となった文化的景観である。特にその中心となる阿蘇地方の採草・放牧に関連する景観は千年以上継続するものであり、我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないものであることから、重要文化的景観に選定して保護を図るものである。 今回は阿蘇市域のうち保護措置の整った北外輪山中央部の草地を選定する。