国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
国宝・重要文化財(美術工芸品)
主情報
名称
:
十一面向観音像(三十三身)
ふりがな
:
解説表示▶
員数
:
1幅
種別
:
絵画
国
:
日本
時代
:
鎌倉
年代
:
西暦
:
作者
:
寸法・重量
:
品質・形状
:
ト書
:
画賛・奥書・銘文等
:
伝来・その他参考となるべき事項
:
指定番号(登録番号)
:
01965
枝番
:
00
国宝・重文区分
:
重要文化財
重文指定年月日
:
1998.06.30(平成10.06.30)
国宝指定年月日
:
追加年月日
:
所在都道府県
:
奈良県
所在地
:
保管施設の名称
:
所有者名
:
能満院
管理団体・管理責任者名
:
解説文:
十一面観音信仰は奈良時代より盛んで、優れた遺品も少なくない。しかし、本図のように右手に錫杖を持つ長谷寺本尊と同様の十一面観音像と、その周囲に三十三応身を配置したという本尊形式の画像は珍しく、類例中でも本図は最も古い一本といえる。
本図画面は内外二区に分かれ、内区に海中の岩上に立つ皆金色の十一面観音像を表し、外区には三十三体の応化身を並列している。
内区の観音は斜め左方に身体を向け、右手を垂れて前に向けた掌に錫杖の柄を執る。手首には透明の数珠を懸ける。左手は屈臂して白蓮華を差した水瓶を持つ。両足下には緑色の踏割蓮華を敷く。頭上面は四段に表し、最上部に仏面、二段目に二面、三・四段目に各四面を描き、本面の冠正面には阿弥陀立像を表している。肉身は金泥彩で、条帛・裳・腰衣・天衣等には截金文様を施している。背景は波高い海原で、画面の高い位置に水平線を設け、右上に白色の州浜、さらに松の茂る山を描いている。
外区に表されている三十三応身は『法華経』巻第七「観世音菩薩普門品第二十五」のなかに説かれている。さまざまな国土において、種々の苦悩に悩まされる衆生を、それぞれに応じた姿に変化して救うという、その三十三種の応現した姿をいう。仏の姿をはじめ、出家在家それぞれの階梯にある老若男女、帝釈天をはじめとする天、阿修羅や種々の鬼神などであるが、本図では画面下辺の中央から左右に各身を割り振って並列し描いている。各像にはその名称を記した短冊形が付けられているが、『法華経』に説かれる「非人」がなく、そのかわりに「天身」を「天龍」とは別に描いている。
三十三応身の図像については『摂無礙大悲心大陀羅尼経』に説かれているが、本図と一致するものは少ない。絵画に描かれた例としては、富山・本法寺蔵法華経曼荼羅図や石川・本土寺蔵観音経絵中にも見いだすことができるが、本図のように独立した遺品としては、東京国立博物館に聖観音像を中心に仏身を除いた三十二身を左右に表したもの(南北朝時代)が知られているのにすぎない。
本図はやや形式化しているきらいはあるものの、的確に象形され、細緻な截金文様によって荘厳された観音身、群青や緑青さらに金泥等で彩色された土坡や岩、C字を繰り返す飛沫などの表現は、たとえば奈良国立博物館蔵如意輪観音像に認められるように鎌倉時代末期の仏画表現の典型といえる。とくに彩色の保存状態は良好であり、いわゆる長谷寺式の十一面観音を表し、さらに三十三身をめぐらせるという珍しい図柄をもつなど、本図の価値は高い。長谷寺の塔頭である能満院に伝来することも意義深い。なお、本図は文化十二年(一八一五)に大乗院隆範によって修理されている。
関連情報
(情報の有無)
附指定
なし
一つ書
なし
添付ファイル
なし
解説文
十一面観音信仰は奈良時代より盛んで、優れた遺品も少なくない。しかし、本図のように右手に錫杖を持つ長谷寺本尊と同様の十一面観音像と、その周囲に三十三応身を配置したという本尊形式の画像は珍しく、類例中でも本図は最も古い一本といえる。 本図画面は内外二区に分かれ、内区に海中の岩上に立つ皆金色の十一面観音像を表し、外区には三十三体の応化身を並列している。 内区の観音は斜め左方に身体を向け、右手を垂れて前に向けた掌に錫杖の柄を執る。手首には透明の数珠を懸ける。左手は屈臂して白蓮華を差した水瓶を持つ。両足下には緑色の踏割蓮華を敷く。頭上面は四段に表し、最上部に仏面、二段目に二面、三・四段目に各四面を描き、本面の冠正面には阿弥陀立像を表している。肉身は金泥彩で、条帛・裳・腰衣・天衣等には截金文様を施している。背景は波高い海原で、画面の高い位置に水平線を設け、右上に白色の州浜、さらに松の茂る山を描いている。 外区に表されている三十三応身は『法華経』巻第七「観世音菩薩普門品第二十五」のなかに説かれている。さまざまな国土において、種々の苦悩に悩まされる衆生を、それぞれに応じた姿に変化して救うという、その三十三種の応現した姿をいう。仏の姿をはじめ、出家在家それぞれの階梯にある老若男女、帝釈天をはじめとする天、阿修羅や種々の鬼神などであるが、本図では画面下辺の中央から左右に各身を割り振って並列し描いている。各像にはその名称を記した短冊形が付けられているが、『法華経』に説かれる「非人」がなく、そのかわりに「天身」を「天龍」とは別に描いている。 三十三応身の図像については『摂無礙大悲心大陀羅尼経』に説かれているが、本図と一致するものは少ない。絵画に描かれた例としては、富山・本法寺蔵法華経曼荼羅図や石川・本土寺蔵観音経絵中にも見いだすことができるが、本図のように独立した遺品としては、東京国立博物館に聖観音像を中心に仏身を除いた三十二身を左右に表したもの(南北朝時代)が知られているのにすぎない。 本図はやや形式化しているきらいはあるものの、的確に象形され、細緻な截金文様によって荘厳された観音身、群青や緑青さらに金泥等で彩色された土坡や岩、C字を繰り返す飛沫などの表現は、たとえば奈良国立博物館蔵如意輪観音像に認められるように鎌倉時代末期の仏画表現の典型といえる。とくに彩色の保存状態は良好であり、いわゆる長谷寺式の十一面観音を表し、さらに三十三身をめぐらせるという珍しい図柄をもつなど、本図の価値は高い。長谷寺の塔頭である能満院に伝来することも意義深い。なお、本図は文化十二年(一八一五)に大乗院隆範によって修理されている。