国宝・重要文化財(美術工芸品)
 主情報
名称 絹本著色仏涅槃図
ふりがな けんぽんちゃくしょくぶつねはんず
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員数 1幅
種別 絵画
日本
時代 鎌倉
年代
西暦
作者
寸法・重量
品質・形状
ト書
画賛・奥書・銘文等
伝来・その他参考となるべき事項
指定番号(登録番号) 01956
枝番 00
国宝・重文区分 重要文化財
重文指定年月日 1997.06.30(平成9.06.30)
国宝指定年月日
追加年月日
所在都道府県 兵庫県
所在地 兵庫県立歴史博物館 兵庫県姫路市本町68
保管施設の名称 兵庫県立歴史博物館 
所有者名 兵庫県
管理団体・管理責任者名

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解説文:
 釈迦入滅の場面を描き表した涅槃図の形式は、鎌倉時代の中ごろを境に大きく変わる。一般に平安時代の涅槃図は横長あるいは正方形に近い画面をもち、参集した人物や諸動物の数は少ない。ところが、鎌倉時代後期以降の涅槃図では縦に長い画面を用い、会衆や諸動物の数がきわめて多くなる。
 本図は正方形に近い画面であり、釈迦が両手を体側につけて伸ばす姿勢をとり、視点を釈迦の足許のほうにとって牀を表すなど、金剛峯寺本(応徳涅槃図)や東京国立博物館本など平安時代の涅槃図と共通している。とくに、釈迦の枕辺で頬杖をついて思惟する弥勒菩薩や左袂で目頭を押さえる耆婆大臣、悶絶する獅子など、金剛峯寺本から図像を直接に援用したとみられるものが複数存在することは興味深い。八部衆等の鬼神類の図像も京都国立博物館蔵釈迦金棺出現図中のものに近く、平安時代の図様を伝えるものとみられる。他方、釈迦が顔を画面下方に向けることや、会衆・諸動物の数が増えていることなどは鎌倉時代の涅槃図の特色を示している。
 釈迦の着衣には截金文様による地文を施し、牀上面や供物台、人物の衣等には彩色によって細かく文様を表しているが、明度の高い色彩感覚は石山寺本や浄教寺本など、鎌倉時代前期の作例を想起させる。とくに、後者とは釈迦および牀の表現法に親縁性が認められるが、本図には会衆や動物の描写に写し崩れがあり、制作期も若干下ると思われる。釈迦を囲む会衆は三体の菩薩や梵天帝釈・阿修羅・毘沙門・八部衆・雷神等を含む二七体の天部のほか、一八体の声聞、一三体の俗人、そして三六種の禽獣からなる。声聞は羅漢風であるが、弥勒菩薩後方の二体は後述の供養者グループに属するものとみられる。また、俗人には女性三人が含まれる。とくに注目されるのは、弥勒菩薩後方の和装の中年女性で、両手を重ねて胸に当てているが、その後ろで合掌する尼風の声聞とその手前の老声聞とともに本図を制作させた供養者の肖像である可能性がある。供養者を画中に描き表すことは、鎌倉時代の仏画にまれに行われているが、本図は早期の例であり、涅槃の会衆に混じってなんら不自然さを感じさせずに表現しえている技量は高く評価されよう。
 このほか、虚空右手には雲に乗って降下してくる摩耶夫人【まやぶにん】の姿が二人の侍女に挟まれて見え、その前方には鶴に乗り節を持つらしい童子(神仙)二体、さらに画面左上方に飛翔する二天女が表されている。虚空には銀色の満月がかかり、数種の楽器が浮遊し、散華が降る。天女や諸楽器が舞う例は他にもあるが、神仙を描き込んだ仏涅槃図の遺品はきわめて珍しい。
 動物や人物の着衣に一部後補の墨線があって画趣を損ねていることが惜しまれるが、全体に彩色や截金の保存状態は良好で、制作当初の華やかさをよくとどめている。基本的に平安時代の仏涅槃図の図様や表現法を引き継ぎつつ、新たな技法を加味し、さらに供養者を描き込むなどの工夫も行って、なおかつ大きな画面を破綻なくまとめあげた画家の手腕は凡庸なものではない。鎌倉時代の過渡期的な涅槃図の力作として評価される。
関連情報
    (情報の有無)
  附指定 なし
  一つ書 なし
  添付ファイル なし