国宝・重要文化財(美術工芸品)
 主情報
名称 紙本著色聖母十五玄義・聖体秘跡図
ふりがな
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員数 1面
種別 絵画
日本
時代 江戸
年代
西暦
作者
寸法・重量
品質・形状
ト書
画賛・奥書・銘文等
伝来・その他参考となるべき事項
指定番号(登録番号) 01985
枝番 0
国宝・重文区分 重要文化財
重文指定年月日 2001.06.22(平成13.06.22)
国宝指定年月日
追加年月日
所在都道府県 京都府
所在地 京都府京都市左京区吉田本町
保管施設の名称 国立大学法人京都大学
所有者名 国立大学法人京都大学
管理団体・管理責任者名

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解説文:
 本図は複数の画題からなっている。すなわち、中央には幼子イエスを抱き白バラを持つ聖母像を表し、その下方には聖餅とカリスによって表される聖体と、これを讃仰する四聖人、さらに周囲にはロザリオの十五玄義と称される図を廻らしている。
 ロザリオはキリストおよびマリアの生涯から「喜び」「悲しみ」「栄え」の三主題に沿ってそれぞれ五場面ずつを選び、各場面ごとに黙想しながらロザリオと称する数珠を繰りつつ定まった祈祷を称える祈祷形態である。聖母像の周囲にこの十五玄義を廻らせた図をロザリオの聖母図と称することもある。本図ではさらに聖餐図が描かれており、さらにこの図の上下にラテン語文が付されていることは軽視し得ない。すなわち、図の上には「いとも尊き秘跡(サクラメント)は讃えられん」と本図の題のごとき文があり、下方には四人の聖人(ただし、イグナツィオおよびザビエルは聖人を示すSだけでなくPが付され、聖なる父と呼ばれており、これを列聖以前の制作である証拠とする説がある)の名前と、イエズス会を示すと思われる「ソシエタチス(会・団体)」の文が記されている。秘跡は七つあるが、その中でも聖餐は最も重要な秘跡であるから、本図の眼目がここにあったとも受け取れる。
 本図と酷似した遺品にフランシスコ・ザビエル像(神戸市蔵、重文)とともに発見された東家本がある。本図と東家本を比較すると、主要部分の図像が共通するものの、十五玄義図中いくつかの場面で差異があり、この模写と本図を考えることはできない。おそらく、両本に共通する祖本があり、それぞれ変更を加えながら制作したと推測される。東家本は残念ながら画題の中心である聖母の顔を欠失しており、全体に損傷が著しい。また、本図は東家本にはない聖ルチアおよび聖マティウスを描き加えていることも興味深い。
 本図は西洋の画像に依拠していることはもちろんであるが、特に日本布教に際して宣教師が多用したらしい図像が認められる。例えば、聖体図は著名な島原の乱における陣中旗に、本図と同じ欧文を付して描かれているし、聖母子図におけるイエスが十字架を立てた球体を持つ図像は、中谷家伝来の救世主像(東京大学総合図書館)や東京国立博物館保管キリシタン遺物中「三聖人図」等に見出される。また、前述ザビエル像と図像的に共通するところも多く、ザビエルやロヨラの称号として「S.P.」を付す点も等しい。
 表現技法についても、陰影法に西洋画的な彩色をとり、金色を透明な黄色顔料により表現していることなど、ザビエル像あるいは東家本と同様である。しかし、これら三本を比較すると東家本が最も西洋画法に忠実であり、本図とザビエル像はより日本化が進んでいると思われる。例えば立体的な表現より表面の仕上がりにより留意している傾向が認められる。これらのことから、制作年代はザビエル像と相近い一七世紀初頭ころといちおう考えられよう。
 本図は昭和五年(一九三〇)四月、現在の茨木市下音羽地区の原田家より発見された。母屋の棟木にくくりつけられていた竹筒の中から発見されたもので、この竹筒は現在も京都大学に保管されている。同地域はキリシタン大名として著名な高山右近の所領地であり、江戸時代初期においてもおそらく最も熱心なキリシタンが存在したとみられる地域であることは看過できない。
 西洋画技法の最初期における受容のあり方を示す本図は、保存状態が極めて良く絵画史上に重要であるが、それのみならず、遺品の乏しい江戸時代初期のキリスト教画の中でも特に内容が充実しており貴重な文化史料といえる。
関連情報
    (情報の有無)
  附指定
  一つ書 なし
  添付ファイル なし