選定保存技術
 主情報
名称 邦楽器原糸製造
ふりがな ほうがっきげんしせいぞう
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種別(有形、無形、有形・無形) 無形
その他参考となるべき事項
認定区分 団体
選定年月日 1991.11.16(平成3.11.16)
選定基準1
選定基準2
選定基準3

解説文:
 三味線、箏、琵琶、胡弓などの弦楽器は、重要無形文化財に指定されている雅楽、人形浄瑠璃文楽、歌舞伎、箏曲、地唄、義太夫節、長唄、清元節、常磐津節をはじめ、我が国の伝統芸能諸分野にとっては欠かせない楽器である。
 これらの邦楽器の糸(絃)は、伝統的に絹糸によって作られている。
 この絹糸製の糸(絃)は、我が国の伝統的な音楽の保存振興に不可欠なものであるため、昭和五十四年に、糸(絃)のもとになる原糸から完成品としての糸(絃)を製作する伝統的な技術を選定保存技術「邦楽器糸製作」として選定し、橋本太雄【はしもとふとお】、小篠洋之【おざさひろゆき】の両氏を保持者として認定した。さらに同五十五年には三枝正造【さえぐさしょうぞう】氏(平成三年死亡解除)を保持者に追加認定している。
 今回選定する邦楽器原糸製造の技術は、この邦楽器糸製作に用いる原糸(繭から繰った糸)を製造する技術である。
 この原糸製造は、邦楽器糸(絃)用の原糸が一般の織物用と異なり硬さが求められるため、手作業による特別の製造方法によって行われている。すなわち、春蚕【はるこ】の繭を使い、蛹【さなぎ】を熱風で乾燥した後、座繰機【ざくりき】を用いて繭を煮沸しながら手作業で繭の糸を集緒器【しゅうちょき】に集めて繰り、枠に巻き取っていく。ここで熟練を要するのは、常に一定数の繭の糸が集緒されていくようにする(「太もの」と呼ばれる三味線の一の糸、二の糸や琴糸の場合は、繭をほぼ一四~一五粒を集結、また「細もの」と呼ばれる三味線の三の糸の場合は、繭をほぼ七~八粒集緒)ため、切れた糸をとっさに集緒器にかませてゆくなどの手作業にある。この原糸製造の何よりもの特徴は、生挽【なまびき】と呼ばれる蛹を生かしたまま(重量比にして二〇パーセント~三〇パーセントしか繭を乾燥させない)煮沸して糸を繰る点にある。このようにして製造された原糸は、邦楽器の糸(絃)にふさわしい硬度や要素を持っている。
 これらの原糸は、前述の選定保存技術「邦楽器糸製作」の保持者をはじめとする邦楽器糸製作業者に供給され、そこで撚糸、糊【のり】煮込み等の工程を経て、完成品となって邦楽器演奏者の手に渡ってゆく。
 現在、このような伝統的方法で原糸を製造しているのは、滋賀県の琵琶湖北部の伊香郡木之本町および東浅井【あざい】郡浅井【あざい】町の地だけであり、当地方の邦楽器原糸製造業者は、今日、糸の座繰作業に携わる女性労働者が高齢化する一方、手作業であること、年間を通じで就業期間が極めて限られていること(春蚕の繭を材料とし、羽化【うか】までの短期間のうちに作業を終了しなければならない)などから若年の後継者が払底し、この業を営む家も現在では木之本町、浅井町それぞれに数件ずつというように数少なくなっている。
 また、近年、ナイロン系・ポリエステル系の科学繊維製の邦楽器糸(絃)が登場し、例えば箏などにおいては、絹糸製の糸に取って替わりつつあるなど、邦楽の伝統的技法の保存継承において憂慮すべき傾向が見られる。
 これらのことから、邦楽器原糸製造の伝統的技術を選定保存技術に認定し、その技術の保存および伝承者の養成を緊急に行う必要がある。
関連情報
    (情報の有無)
  保持者情報(保持者/芸名・雅号) なし
  保持団体(関係技芸者の団体)
  添付ファイル なし