国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
史跡名勝天然記念物
主情報
名称
:
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群
ふりがな
:
こちちぶわんたいせきそうおよびかいせいほにゅうるいかせきぐん
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(秩父市大野原産出パレオパラドキシア骨格化石の標本)
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種別1
:
天然記念物
種別2
:
時代
:
年代
:
西暦
:
面積
:
147550.47 m
2
その他参考となるべき事項
:
告示番号
:
29
特別区分
:
指定年月日
:
2016.03.01(平成28.03.01)
特別指定年月日
:
追加年月日
:
指定基準
:
所在都道府県
:
埼玉県
所在地(市区町村)
:
埼玉県秩父市・小鹿野町・長瀞町・皆野町・横瀬町
保管施設の名称
:
所有者種別
:
所有者名
:
管理団体・管理責任者名
:
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(秩父市大野原産出パレオパラドキシア骨格化石の標本)
解説文:
詳細解説
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群は,東西・南北とも約15kmの埼玉県秩父地域の秩父盆地に広がる新生代(しんせいだい)中新世(ちゅうしんせい)(約1,700万年~1,500万年前)の海成層とパレオパラドキシア及び鯨類化石の標本である。現在の日本列島の原型は,新生代中新世の約2,000万年前から1,500万年前にかけて形成された。この時代,秩父盆地は東に開いた古秩父湾を形成しており,秩父盆地に分布する約200万年分の地層には地殻変動による湾の形成から終焉までが記録されている。
また,古秩父湾には海棲哺乳類をはじめ多様な生物群集が生息していたことが化石から確認されており,その代表が約1,200万年前まで環太平洋地域の海浜で生息していたパレオパラドキシアや鯨類など大型海棲哺乳類である。秩父盆地は日本有数のパレオパラドキシア化石産出地で,日本産出標本の5分の1が報告されている。これらの地層と化石群は,日本列島形成当時の日本近海で起こった地殻変動や生物群集及び古環境の変遷を示すもので,地層の露出状況及び化石標本の産出状態が良好であり,学術上貴重である。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
写真一覧
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(秩父市大野原産出パレオパラドキシア骨格化石の標本)
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(秩父市 大野原パレオパラドキシア化石産地)
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(横瀬町 新田橋の礫岩露頭)
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(皆野町 前原の不整合)
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(小鹿野町 ようばけ)
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古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(秩父市大野原産出パレオパラドキシア骨格化石の標本)
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古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(秩父市 大野原パレオパラドキシア化石産地)
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古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(横瀬町 新田橋の礫岩露頭)
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古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(皆野町 前原の不整合)
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古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群(小鹿野町 ようばけ)
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解説文
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群は,東西・南北とも約15kmの埼玉県秩父地域の秩父盆地に広がる新生代(しんせいだい)中新世(ちゅうしんせい)(約1,700万年~1,500万年前)の海成層とパレオパラドキシア及び鯨類化石の標本である。現在の日本列島の原型は,新生代中新世の約2,000万年前から1,500万年前にかけて形成された。この時代,秩父盆地は東に開いた古秩父湾を形成しており,秩父盆地に分布する約200万年分の地層には地殻変動による湾の形成から終焉までが記録されている。 また,古秩父湾には海棲哺乳類をはじめ多様な生物群集が生息していたことが化石から確認されており,その代表が約1,200万年前まで環太平洋地域の海浜で生息していたパレオパラドキシアや鯨類など大型海棲哺乳類である。秩父盆地は日本有数のパレオパラドキシア化石産出地で,日本産出標本の5分の1が報告されている。これらの地層と化石群は,日本列島形成当時の日本近海で起こった地殻変動や生物群集及び古環境の変遷を示すもので,地層の露出状況及び化石標本の産出状態が良好であり,学術上貴重である。
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詳細解説
古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群は、東西・南北とも約15kmの埼玉県秩父地域に広がる新生代中新世の海成層とパレオパラドキシア及び鯨類化石の標本である。新生代漸新世末期の約2,500万年前頃からユーラシア大陸の東端に発達した地溝帯は東西方向に拡大し、新生代中新世の約2,000万年前から1,500万年前にかけて、現在の日本列島の原型である多島海を形成した。この時代、埼玉県秩父地域の秩父盆地は東に開いた湾(以下古秩父湾)を形成しており、秩父盆地には層厚約6,000mの海成層が分布している。盆地西側から北側には約1,700万年前の地層が、南東部には約1,500万年前の地層が連続して分布し、各地で良好な露頭が観察できる。また秩父盆地からは、パレオパラドキシアや鯨類をはじめとする当時の日本列島沿岸域の生物群集を代表する海棲哺乳類などが多産している。 古秩父湾は、約1,700万年前にジュラ紀から白亜紀の岩石を基盤として、粗粒砂が堆積する浅海性の環境であった。この頃からパレオパラドキシアなど海棲哺乳類が確認されている。約1,600万年前になると、関東山地を含む広い範囲が急激に沈降したことから古秩父湾は無くなり深海の時期を迎え、周囲の山々から海底へ土砂が供給された。その後、断層運動によって秩父盆地の南端から東端にかけた地域が隆起をはじめ、土砂の堆積によって古秩父湾は再び浅海性となり、約1,500万年前には現在の外秩父山地の原型となる山塊に古秩父湾の開口部がふさがれたことで、次第に海は消滅して古秩父湾は終焉をむかえる。この変遷を顕著に示し保存状態が良好で保護の必要性がある露頭が、「前原の不整合」「犬木の不整合」「取方の大露頭」「ようばけ」「大野原パレオパラドキシア化石産地」及び「新田橋の礫岩露頭」である。 「前原の不整合」と「犬木の不整合」は、約1,700万年前の堆積層と約1.5億~1億年前の白亜紀及びジュラ紀の付加体との境界であり、古秩父湾が形成されはじめた事を示す。不整合の上位には、礫の間にカキなどの海棲二枚貝の化石が産出しており、海の環境下であったことを示す。「取方の大露頭」は、約1,600年前の砂岩泥岩互層から成り、古秩父湾が深い海であったことを示す高さ約50m、幅約800mの連続性の良い露頭である。「ようばけ」は、約1,550万年前の砂質泥岩からなり、ナグラベンケイガニやサカモトイチョウガニなどの化石が産出するため、浅海性の内湾環境であったことを示す高さ約100m、幅約400mの露頭である。「大野原パレオパラドキシア化石産地」も「ようばけ」と同じ時期と環境で堆積した地層で、海棲哺乳類の化石産出地として特徴づけられる。「新田橋の礫岩露頭」は1,500万年前の西に約70度傾斜する礫岩層で、山塊の急激な隆起に伴って崖錐礫として堆積したことを示す。 一方で、古秩父湾に生息していた生物群集を象徴するのは海棲哺乳類化石群で、昭和26年(1951)にパレオパラドキシア化石が発見されたことをきっかけとして、続々と報告されてきた。日本で産出する脊椎動物化石の記録は世界的にみて非常に少ないのに対し、新生代新第三紀の海棲哺乳類化石は日本でも多産している。なかでもパレオパラドキシアなどの束柱類化石や鯨類であるチチブクジラやオガノヒゲクジラは、日本を主な産地として環太平洋地域の一部でしか見つかっておらず、日本列島が多島海であった頃の海域環境を象徴し、古秩父湾では大型の海棲哺乳類が成育できるような環境が維持されていたことを示唆する。この他にも秩父盆地は、セイウチなどの鰭脚類、ヒゲクジラやハクジラなどの鯨類、ウミガメなどのハ虫類、魚類、甲殻類、貝類、サンゴ類などの化石の産出地であることから、古秩父湾で約200万年にわたって多様な生態系が維持されていたと考えることができる。 パレオパラドキシアは、約1,900万年前に出現して1,200万年前までに絶滅した束柱目に分類される哺乳類で、アメリカ西海岸から日本にかけての沿岸に生息し、現在のカバやセイウチのように海浜で海と陸とを行き来していた草食動物である。秩父盆地は日本有数のパレオパラドキシア化石産出地で、日本産出標本の5分の1である計7標本が報告されている。秩父盆地で産出した化石標本である「秩父市寺尾産出パレオパラドキシア頭骨化石」「秩父市大野原産出パレオパラドキシア骨格化石(以下大野原標本)」「小鹿野町三山産パレオパラドキシア化石」「小鹿野町般若産出パレオパラドキシア骨格化石」「皆野町大渕産出パレオパラドキシア化石」「秩父市栃谷産出パレオパラドキシア骨格化石」は、産出地に近い埼玉県立自然の博物館(長瀞町)で良好に保存管理されている。このうち大野原標本は、頭骨を含む骨格標本として世界2例目に発見され、先に発見された岐阜県土岐市産出の泉標本と組み合わせて、完全な全身骨格が復元されており、パレオパラドキシアの標本として極めて貴重である。また、ほぼ完全な頭骨化石として産出した「小鹿野町般若産出オガノヒゲクジラ頭骨化石」とチチブクジラのタイプ標本である「秩父市蓼沼産出チチブクジラ骨格化石」は、ハクジラ類からヒゲクジラ類への進化過程を示す骨格を有する原始的な鯨類の化石である。 以上より、古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群は、日本列島形成当時の日本近海で起こった地殻変動や生物群集及び古環境の変遷を示す地層と化石標本として貴重である。よって、天然記念物に指定し保護を図るものである。