国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
史跡名勝天然記念物
主情報
名称
:
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地
ふりがな
:
くにちゃつぼみごけせいぶつぐんしゅうのてっこうせいせいち
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(チャツボミゴケ群落)
写真一覧▶
地図表示▶
解説表示▶
種別1
:
天然記念物
種別2
:
時代
:
年代
:
西暦
:
面積
:
62679.33 m
2
その他参考となるべき事項
:
告示番号
:
10
特別区分
:
指定年月日
:
2017.02.09(平成29.02.09)
特別指定年月日
:
追加年月日
:
指定基準
:
所在都道府県
:
群馬県
所在地(市区町村)
:
群馬県吾妻郡中之条町
保管施設の名称
:
所有者種別
:
所有者名
:
管理団体・管理責任者名
:
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(チャツボミゴケ群落)
解説文:
詳細解説
元山川の源流部に位置し,かつて鉄鉱石を採掘していた群馬鉄山の鉱山跡で,現在はチャツボミゴケ公園として整備された自然公園の中に位置する。
鉱泉の湧き出し口から約400mの範囲では,鉱泉の湧出によって,水質はph2.6~2.9と強酸性を示す。水温は19.6~29.5℃で周囲の気温が氷点下になる冬季においてもほとんど低下せず,年間を通じて高水温が維持されている。また,硫酸イオンや塩化物イオンの他に鉄などの金属イオンの濃度が高い。この環境を好んで生息するチャツボミゴケと鉄バクテリアの生物活動の副産物として,鉄鉱が生成されている。崖部の鉄鉱に含まれる炭化物の年代測定値は1万数千年以上前であり,その鉄鉱にチャツボミゴケの化石やバクテリアの痕跡が見られることから,同様の作用が長期に渡って継続してきたと考えられる。
本地域は鉄鉱生成の歴史とその仕組みを観察できる貴重な場所であることから,湧水や微生物を含む河床とチャツボミゴケ群落,そして鉄鉱石の分布域を天然記念物に指定する。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
写真一覧
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(チャツボミゴケ群落)
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(上流から)
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(鉄鉱生成地)
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(チャツボミゴケへの鉄の沈着)
写真一覧
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(チャツボミゴケ群落)
写真一覧
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(上流から)
写真一覧
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(鉄鉱生成地)
写真一覧
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地(チャツボミゴケへの鉄の沈着)
Loading
Zeom Level
Zoom Mode
解説文
元山川の源流部に位置し,かつて鉄鉱石を採掘していた群馬鉄山の鉱山跡で,現在はチャツボミゴケ公園として整備された自然公園の中に位置する。 鉱泉の湧き出し口から約400mの範囲では,鉱泉の湧出によって,水質はph2.6~2.9と強酸性を示す。水温は19.6~29.5℃で周囲の気温が氷点下になる冬季においてもほとんど低下せず,年間を通じて高水温が維持されている。また,硫酸イオンや塩化物イオンの他に鉄などの金属イオンの濃度が高い。この環境を好んで生息するチャツボミゴケと鉄バクテリアの生物活動の副産物として,鉄鉱が生成されている。崖部の鉄鉱に含まれる炭化物の年代測定値は1万数千年以上前であり,その鉄鉱にチャツボミゴケの化石やバクテリアの痕跡が見られることから,同様の作用が長期に渡って継続してきたと考えられる。 本地域は鉄鉱生成の歴史とその仕組みを観察できる貴重な場所であることから,湧水や微生物を含む河床とチャツボミゴケ群落,そして鉄鉱石の分布域を天然記念物に指定する。
詳細解説▶
詳細解説
六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地は、微生物やコケの生物活動の副産物として鉄鉱が生成されている渓谷である。チャツボミゴケは、世界に約1万8千種あるコケ植物の中で、最も耐酸性の高いコケ植物であり、pH2の強酸性環境でも成長することが知られている。水銀などの重金属を高濃度に蓄積する性質があり、生態についてなお研究が進められている特異なコケである。インドネシアのスマトラ島やジャワ島の火口湖周辺をはじめ、日本国内の24箇所の火山性酸性水域で存在が確認されており、このうち最大規模の群落を形成しているのが本地域のチャツボミゴケである。 群馬県と長野県の境は、日本で有数の火山密集地である。草津白根山もそれらの火山の一つで、基盤が南東に向かって低くなっていることから、非対称な形状の成層火山を成す。西端部の最高所付近に白根山・逢ノ峰・本白根山等が南北に並び、水釜・湯釜・涸釜などの火口地形が分布する。本地域は、白根山山頂から東方約5kmにあり、1万4千年前に噴出したデイサイト質溶岩流の末端部、元山川の源流部に位置する。 元山川両岸の崖部には、主に褐鉄鉱などの水酸化鉄や鉄明礬石から成る鉄鉱が露出する。この地は群馬鉄山として知られ、昭和19年から41年の間鉄鉱石を採石しており、昭和24年には採石量が年間23万トンを超え、戦後日本の復興を支えた有数の鉱山であった。現在では、閉山後に植栽されたカツラ、ウラジロモミ、キタゴヨウ、カエデ類のほかに、アカマツやツツジ・シャクナゲ類、フトヒルムシロなど酸性土壌を好む植物、またリョウブ、ヒメスゲ、シラタマノキなどの硫気孔植物が分布する。さらに、カオジロトンボやタカネヒナバッタなどの高標高地から連続的に分布する昆虫等が生息する。一方、河床には極限られた生物しか生息していない。 元山川の源流部(穴地獄)では、硫気の影響から鉄や硫黄に富む強酸性の鉱泉が湧き出している。数箇所から湧き出した鉱泉は幾条もの小渓流を形成し、小渓流は合流して硫化物から成る階段状の地形によって滝となり、滝は再び渓流となって流下する。穴地獄から下流側約400mの範囲は鉱泉の影響が強く、特殊な環境が形成されている。水温は年間を通じ19.6~29.5℃の範囲で保たれており、周囲の気温が氷点下になる冬季においてもほとんど低下せず高水温が維持されている。水質は、pH2.6~2.9と強酸性を示し、硫酸イオンや塩化物イオンのほかに鉄などの金属イオンの濃度が高く、物質の電子の受け取りやすさの指標である酸化還元電位は450~500mVを示す。また、湧き出し口あたりでは溶存酸素濃度が極めて低い。このような環境では、無機化学的に鉱泉中の鉄イオンが酸化することはなく、酸化鉄や水酸化鉄は生成されないとされている。 しかしながら、六合チャツボミゴケ生物群集の鉄鉱生成地では、水辺に生息するチャツボミゴケと鉄バクテリアの共生関係によって水酸化鉄が生成される作用が生じている。チャツボミゴケが密集すると、水流が妨げられ穏やかな「よどみ」となり、さらに光合成によってチャツボミゴケの細胞表面でpH値が4程度まで上昇する。この環境で水酸化鉄は、鉄バクテリアにより鉱泉に含まれる鉄イオンから生成され、チャツボミゴケに付着して蓄積される。崖部の鉄鉱に含まれる炭化物の年代測定値は1万数千年以上前であり、その鉄鉱にチャツボミゴケの化石やバクテリアの痕跡がみられることから、同様の作用が長期に渡って継続してきたと考えられる。 以上のように、チャツボミゴケが群生する中之条町六合地区の元山川源流部は、鉄鉱が生成される渓谷であり、長期にわたる鉄鉱生成の歴史とその仕組みを観察できる貴重な場所である。よって、鉱泉や微生物を含むチャツボミゴケ生物群集、そして鉄鉱の分布域を天然記念物に指定し保護を図ろうとするものである。