国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
史跡名勝天然記念物
主情報
名称
:
養老川流域田淵の地磁気逆転地層
ふりがな
:
ようろうがわりゅういきたぶちのちじきぎゃくてんちそう
解説表示▶
種別1
:
天然記念物
種別2
:
時代
:
年代
:
西暦
:
面積
:
28490.91 m
2
その他参考となるべき事項
:
告示番号
:
189
特別区分
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指定年月日
:
2018.10.15(平成30.10.15)
特別指定年月日
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追加年月日
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指定基準
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所在都道府県
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千葉県
所在地(市区町村)
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保管施設の名称
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所有者種別
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所有者名
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管理団体・管理責任者名
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解説文:
詳細解説
養老川が房総丘陵を侵食して露出した,第四紀前期更新世と中期更新世境界付近の砂泥質の地層(上総層群(かずさそうぐん)国本層(こくもとそう))で,地球磁場の逆転現象の記録を良好に保存している。千葉県市原市田淵の養老川本流及びその支流では,砂泥層を主体として何枚かの火山灰層を挟み,層厚約60mが露出し,現在の御嶽山付近から飛来・堆積した白尾(びゃくび)火山灰層(Byk-E)の付近で,地磁気の逆転が確認された。加えて,白尾火山灰層の噴出年代は約77万前と決められた。火山灰層と地磁気逆転が確認された地層が極めて隣接していること,前期更新世と中期更新世の境目は松山逆磁極期と現在の磁極期(ブリュンヌ正磁極期)との境界付近と定義されていることなどを踏まえれば,噴出年代と地磁気逆転の年代は誤差の範囲で一致すると考えられ,得られた年代は地磁気の逆転だけでなく地質時代境界の年代を特定するためにも意義がある。これらの一連の地層が露頭面上で容易に観察でき,火山灰層によって視覚的に確認可能でかつ年代が確認されている場所は他に例がなく,学術上極めて価値が高い。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
解説文
養老川が房総丘陵を侵食して露出した,第四紀前期更新世と中期更新世境界付近の砂泥質の地層(上総層群(かずさそうぐん)国本層(こくもとそう))で,地球磁場の逆転現象の記録を良好に保存している。千葉県市原市田淵の養老川本流及びその支流では,砂泥層を主体として何枚かの火山灰層を挟み,層厚約60mが露出し,現在の御嶽山付近から飛来・堆積した白尾(びゃくび)火山灰層(Byk-E)の付近で,地磁気の逆転が確認された。加えて,白尾火山灰層の噴出年代は約77万前と決められた。火山灰層と地磁気逆転が確認された地層が極めて隣接していること,前期更新世と中期更新世の境目は松山逆磁極期と現在の磁極期(ブリュンヌ正磁極期)との境界付近と定義されていることなどを踏まえれば,噴出年代と地磁気逆転の年代は誤差の範囲で一致すると考えられ,得られた年代は地磁気の逆転だけでなく地質時代境界の年代を特定するためにも意義がある。これらの一連の地層が露頭面上で容易に観察でき,火山灰層によって視覚的に確認可能でかつ年代が確認されている場所は他に例がなく,学術上極めて価値が高い。
詳細解説▶
詳細解説
養老(ようろう)川(がわ)流域(りゅういき)田淵(たぶち)の地磁気(ちじき)逆転(ぎゃくてん)地層(ちそう)は、養老川が房総丘陵を侵食して露出した、第四紀前期更新世と中期更新世境界付近の砂泥質の地層(上総層群(かずさそうぐん)国本層(こくもとそう))で、地球磁場の逆転現象の記録を良好に保存している。房総半島中央部の房総丘陵は、半固結の軟岩からなり、河川は著しく蛇行しつつ下刻している。谷底部では、軟らかい岩石を掘り込んで垂直な谷壁が続き、河床は狭い川幅一面が平らなナメ床の平滑(へいかつ)岩盤(がんばん)河床(かしょう)となって、U字溝形の地形が形成されている。そのため、良好に地層断面が露出し、地球環境の変遷を連続的に記録するものとして、古くから数多くの研究がなされてきた。その中の重要な研究成果が、地磁気の逆転の遷移過程の詳細な記録と逆転現象が生じた年代の特定である。 上総層群国本層は、海底に堆積した層が、その後の隆起によって現在の房総半島中央部に露出したものである。崖面や河床に露出する地層に、水深800mから1000mで生息する貝の化石が存在するため、千葉県中央部は、深海の環境から約数十万年で急激に陸化したことが示唆される。このほか、太平洋側周辺海域の主要な海流の変遷を示す有孔虫化石、陸域植生を示す花粉、海底生物群集の生活様式を示す生痕化石など、当時の陸域と海域の両方の環境を知るための指標が数多く確認されている。さらに、地球の磁極の向きが現在と逆の時期(逆磁極期)から、現在と同じ時代(正磁極期)へと移り変わったことを示す証拠が見つかっている。 現在の地球では、方位磁針のN極は北に、S極は南に向くような磁場が形成されているが、地球の歴史の中ではおよそ数万年から数十万年に一度の頻度で、N極とS極が何度も入れ替わったことが知られ、過去の堆積物である地層や岩石に残留磁化として記録されている。地磁気の逆転現象は、日本人研究者である松山(まつやま)基範(もとのり)(1884~1958年)が、天然記念物玄(げん)武(ぶ)洞(どう)(現在の兵庫県豊岡市に所在)等での研究をもとに世界で初めて提唱したもので、この業績により最後の逆磁極期が松山逆磁極期と呼ばれることになった。その後、研究や技術開発が重ねられ、近年では微量の試料でも残留磁化の測定が可能となっている。 千葉県市原市田淵の養老川本流及びその支流では、砂泥層を主体として何枚かの火山灰層を挟み、層厚約60mが露出する。ここから地層の層厚方向に連続的に試料が採取され、最新の知見による磁気測定がなされた。その結果、現在の御嶽山付近から飛来・堆積した白尾(びゃくび)火山灰層(Byk-E)の上位にある層準で、地磁気の逆転とその遷移期(極性遷移期)の存在が確認された。加えて、白尾火山灰層の噴出年代は、火山灰中の鉱物であるジルコン(ZrSiO4)に含まれるウラン(U)の原子核壊変を利用した年代測定法によって、77万2700年±7200年前と決められた。火山灰層と地磁気逆転が確認された地層が極めて隣接していること、前期更新世と中期更新世の境目は松山逆磁極期と現在の磁極期(ブリュンヌ正磁極期)との境界付近と定義されていることなどを踏まえれば、噴出年代と地磁気逆転の年代は誤差の範囲で一致すると考えられ、得られた年代は地磁気の逆転だけでなく地質時代境界の年代を特定するためにも意義がある。 以上のように、養老川流域田淵の地磁気逆転地層は、地殻変動と養老川の侵食作用によって露出したもので、約77万年前の第四紀更新世中期に起こったとされる地磁気の逆転の前後の海底堆積物が連続的に堆積している。これらの一連の地層が露頭面上で容易に観察でき、火山灰層によって視覚的に確認可能でかつ年代が確認されている場所は他に例がなく、学術上極めて価値が高い。また、当時の堆積環境を示す多様な情報が地磁気の逆転現象と合わせて保存されているため貴重である。これらのことから、天然記念物に指定し、保存を図るものである。