国指定文化財等
データベース
・・・国宝、重要文化財
重要文化的景観
主情報
名称
:
阿蘇の文化的景観
阿蘇山南西部の草原及び森林景観
ふりがな
:
あそのぶんかてきけいかん
あそさんなんせいぶのそうげんおよびしんりんけいかん
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種別1
:
重要文化的景観
種別2
:
面積
:
1995.8 ha
その他参考となるべき事項
:
選定番号
:
選定年月日
:
2017.10.13(平成29.10.13)
追加年月日
:
選定基準
:
所在都道府県
:
熊本県
所在地(市区町村)
:
熊本県阿蘇郡南阿蘇村
解説文:
詳細解説
阿蘇カルデラ南部の南郷(なんごう)谷(だに)は,湧水が豊富な一方,火山性の地質のため土地が痩せており,土地を耕作地として利用するには,施肥に必要な草地及び放牧地との一体的利用が不可欠であった。阿蘇地方南阿蘇村北部の典型的な草地景観である。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
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解説文
阿蘇カルデラ南部の南郷(なんごう)谷(だに)は,湧水が豊富な一方,火山性の地質のため土地が痩せており,土地を耕作地として利用するには,施肥に必要な草地及び放牧地との一体的利用が不可欠であった。阿蘇地方南阿蘇村北部の典型的な草地景観である。
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詳細解説
九州の内陸ほぼ中央に位置する阿蘇火山は、南北約25km、東西約18km、面積約380k㎡のカルデラ地形を有する。カルデラ地形は、約27万年前から約9万年前に流出した計4回の火砕流噴火によって形成された中央火口丘・カルデラ床・外輪山からなり、中央火口丘に位置する中岳は我が国を代表する活火山である。 南阿蘇村は、南郷谷の西4分の3を占め、カルデラ床を中心に広がる。西外輪山に位置する俵山(標高1095m)周辺の高原を除き、外輪壁斜面は内側に向かって急峻な地形をなし、外輪山頂付近はナラ、カシ、ケヤキ、ヤマザクラ等の天然林となっている。 南郷谷では、西流する白川によって狭い谷の侵食が進んだため、阿蘇谷と比べて谷底の河床勾配が大きく平坦地が少ない。谷底平野では地下水帯水層が広い範囲で形成されており、白川水源や塩井社(しおいしゃ)水源等の数多くの湧水がみられる一方、火山灰等の堆積層が厚く乏水性の土壌が広がっている。よって、白川を中心として、両岸の河岸段丘を棚田及び段々畑、その南北を居住地として、白川の北側集落は中央火口丘、南側集落はカルデラ壁を草地として利用してきた。外輪山では急斜面が多いため小規模な草地が多い一方、中央火口丘では緩斜面に広めの草地が広がる。 阿蘇の草地は、千年以上にわたり、牛馬の放牧及び飼料用の草を得る場、耕作地に施す緑肥及びたい肥を供給する場、時には居住地の家屋の屋根及び生活用具の材料を供給する場等として継続的に利用されてきた。このような草地を軸として、地形に沿って垂直方向に変化する土地利用及び景観は、阿蘇地域の自然風土に適応した生活又は生業によって歴史的に形成されてきたものである。 江戸時代には、熊本藩から南郷中(なんごうちゅう)用水方(ようすいほう)定役(じょうやく)に任ぜられた片山嘉左衛門が、湧水や白川の豊富な水を利用するために、南郷谷の久木野地区に大小の井手を開削し、その半生を水利事業にささげた。その後も、片山家が四代にわたり南郷谷の水利事業にかかわって計6本の疏水群が開削されており、近代以降も、ほ場整備や用水路整備により畑作から水田への転換が進められた地域である。 8世紀ごろから盛んになった阿蘇山を御神体とする山岳信仰では、阿蘇山を修行の場とする行者や僧侶が増えた。中央火口丘のひとつである中岳と草千里ヶ浜の間に広がる標高約1500mの平坦地では、鎌倉時代から室町時代にかけて三十六坊五十二庵にのぼる多くの坊舎や宿坊が建ち並び「古坊中(ふるぼうちゅう)」呼ばれていた時期があり、その地形の広がりを確認することができる。 南郷谷のうち中央火口岳の西に位置する下野地区周辺では天正年間まで「下野狩」という阿蘇大宮司が行う草原に火を放つ狩神事が行われていた。この狩神事の前には、周辺の山野で野焼きが行われて獲物が集められたとされており、阿蘇地方では古くから火を用いて狩猟をしていたことを窺い知ることができる。 南阿蘇村西側(旧長陽村付近)では、かつて熊本市街地から阿蘇山上への入口として「阿蘇参り」の参拝者が湯治をかねて一週間ほど、自炊・宿泊を行っていた時期があり、当地は地獄温泉、垂(たる)玉(たま)温泉と呼ばれる著名な温泉地となっている。 近年の草地は、地域の牧野組合が中心となり、秋に草を刈って防火帯を作る「輪地切り」及び早春に枯れた草を焼き払う「野焼き」によって維持されているが、担い手の確保が課題となっている。平成17年(2005)からは、自然再生法に基づいて関係行政機関、地域住民、牧野組合員、NPO、専門家等によって「阿蘇草原再生協議会」が組織され、国立公園管理団体である「(公財)阿蘇グリーンストック」とともに、草地を維持再生する募金活動及びボランティア活動が継続的に行われている。 阿蘇の文化的景観は、広大な阿蘇のカルデラ地形に沿った土地利用を継続的に行ってきたために形成された草地・林地・居住地・耕作地が一体となった文化的景観である。特にその中心となる阿蘇地方の採草・放牧に関連する景観は千年以上継続するものであり、我が国民の生活又は生業の理解のため欠くことのできないものであることから、重要文化的景観に選定して保護を図るものである。 今回は南阿蘇村域のうち、保護措置の整った北部の典型的な草地及び林地を選定する。