国指定文化財等データベース

国宝・重要文化財（美術工芸品）

　主情報

名称	：	木造薬師如来立像
ふりがな	：	もくぞうやくしにょらいりゅうぞう
木造薬師如来立像写真一覧▶ 解説表示▶
員数	：	1躯
種別	：	彫刻
国	：
時代	：	鎌倉
年代	：	弘安元
西暦	：	1278
作者	：
寸法・重量	：
品質・形状	：
ト書	：
画賛・奥書・銘文等	：
伝来・その他参考となるべき事項	：
指定番号（登録番号）	：	3606
枝番	：
国宝・重文区分	：	重要文化財
重文指定年月日	：	2014.08.21(平成26.08.21)
国宝指定年月日	：
追加年月日	：
所在都道府県	：	奈良県
所在地	：
保管施設の名称	：
所有者名	：	西方寺
管理団体・管理責任者名	：

木造薬師如来立像

解説文：	弘安元年（1278）に二千人以上の結縁者を募って一日のうちに造立された薬師像。納入品には春日社家の人物の名が見え、春日二宮の本地仏として造られたかとみられる。清凉寺本尊釈迦像と同じ髪型に生身信仰との関わりがうかがえる。檜材の寄木造、素地仕上げ。

関連情報
		(情報の有無)
	附指定
	一つ書	なし
	添付ファイル	なし

写真一覧
木造薬師如来立像

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木造薬師如来立像

詳細解説

　等身の薬師立像で、左手に薬壺を持つ通形の姿であるが、髪を京都清涼寺本尊釈迦如来像（国宝）と同様の、波状の髪型の意匠化に由来する正面中央で渦巻く大まかな毛筋を刻む形式に表す点に特色がある。
　像内に納入されていた六〇〇通を超える奉加結縁交名に弘安元年（一二七八）の年紀がみえ、製作年が判明する。また「一日造立供養薬師（仏）」という文言が一か所、同じく「一日薬師（仏）」が六か所認められ、一日のうちに造立されたことが知られる。日付は全て六月十七日および十八日で、十七日に準備を行い十八日に彫り上げたのであろう。結縁者は僧俗二〇〇〇人以上に及び、奉加銭は基本的に一人一文ずつで、「円教房大之沙汰」などと注記されることよりこれらの僧侶たちより集められたことがうかがえる。
　檜材製で頭体を別材より造り、体部は箱を組むように内部に空間を設ける木寄せになる。その像容は単純な面と線による簡略化された造形を示しており、面部は平滑に仕上げるが体軀では刀目をとどめる。側頭部や両肩上面の矧目【はぎめ】には荒彫の段階で段差が生じたのを調整した痕跡が認められ、仮組みをせず部材ごとに彫り進めたことをうかがわせる。
　『阿娑縛抄』第百八十は、仏像を一日のうちに造る場合、造像の間は呪師が真言を唱え続け、香を絶やさないことを規定しており、一日造立仏が作法を厳格に守って造られる、いわゆる如法仏であることが知られる。如法仏の要件として膠【にかわ】を用いず素地仕上げとすることが挙げられ（『玉葉』寿永元年〈一一八二〉六月条）、本像が材の矧合せに接着剤を用いず素地仕上げになるのはこれに合致する。
　奈良地方に伝来し、清涼寺像と同様の髪型になる薬師像として伝香寺地蔵菩薩像納入品（重要文化財、安貞二年〈一二二八〉、髪は墨線により表される）があり、同じく納入品の舎利と十一面観音像、さらに地蔵像本体を併せて春日本地仏を表している。西方寺の所在地にあった宇陀郡山辺庄は本像造立のころに興福寺領であったことが知られる（『中臣祐賢記』所収文永四年〈一二六七〉「興福寺別当頼円御教書案」鎌倉遺文九七五九）。東京藝術大学保管の文殊菩薩および地蔵菩薩像は台座銘により「宇陀郡西山辺之総社」の本地仏として長禄四年（一四六〇）に造られたことが判明し、春日三宮ならびに若宮の本地仏とみられる。本像の結縁交名中には「祐葛」「祐春」「祐永」の名前がみえ、それらは春日社家中臣氏の神官である同名の人物に宛てられる。こうみると本像には春日二宮、経津主命【ふつぬしのかみ】の本地仏としての性格を考えることができよう。その髪型は短時間で造るための簡略化された形式であるとともに、本像のこうした性格とかかわり、清涼寺像への信仰と共通する生身信仰に基づいて選択されたものであることが想定される。
　穏健なまとまりをみせる像容や稜を立てて輪郭を刻み出す明快な目鼻立ちなど、その作風は善慶（前名は善円）のそれに近いものがある。結縁交名に善慶の子、善春の手になる文永五年の元興寺聖徳太子像や弘安三年の西大寺興正菩薩像（ともに重要文化財）の納入品に記される名と同名の者が散見することがこれに関連して注意される。
　本像は一日造立仏の明徴ある遺品として稀有の存在であり、この種の像の造られ方やその性格を考える上で欠くことのできない作例と評価される。

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