国指定文化財等
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・・・国宝、重要文化財
史跡名勝天然記念物
主情報
名称
:
布田川断層帯
ふりがな
:
ふたがわだんそうたい
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種別1
:
天然記念物
種別2
:
時代
:
年代
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西暦
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面積
:
21878.81 m
2
その他参考となるべき事項
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告示番号
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特別区分
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指定年月日
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2018.02.13(平成30.02.13)
特別指定年月日
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追加年月日
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指定基準
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所在都道府県
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熊本県
所在地(市区町村)
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熊本県上益城郡益城町
保管施設の名称
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所有者種別
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所有者名
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管理団体・管理責任者名
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解説文:
詳細解説
「布田川断層帯」は,最大震度7,マグニチュード7.3を観測した平成28年熊本地震の震源断層である。断層の変位によって,熊本県内各所に亀裂や段差などの地表地震断層が観察された。熊本県益城町は,地震直後から変位が顕著に観察可能な場所であること,生活復旧への影響が最小限であることなどを条件として地表地震断層の保存の検討を開始し,杉堂(すぎどう)地区,堂園(どうぞの)地区,谷川(たにごう)地区の3か所について文化財として保存する方針を示した。その後,専門家の指導のもと町民と行政による保護活動が行われ,断層に沿って生じる湧水地も含めて保存が進められた。
布田川断層帯の地表地震断層は,熊本県嘉島町から益城町,西原村にかけてほぼ連続的に長さ約31kmで露出した。益城町杉堂地区や堂園地区をはじめ多くの地点で,北東―南西の方位に延びる右横ずれを示した。その最大変位約2.5mは堂園地区で記録されており,田畑と畦道の屈曲から確認できる。一方で,益城町谷川地区などでは,卓越する右横ずれ断層と斜交し北西―南東の方位に延びる左横ずれ断層が確認された。
これらの断層は,平成28年熊本地震で生じた多様な断層の運動と連続性を現わしており,学術上価値が高く,地震の被害を将来に伝える災害遺構としても貴重である。
関連情報
(情報の有無)
指定等後に行った措置
なし
添付ファイル
なし
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解説文
「布田川断層帯」は,最大震度7,マグニチュード7.3を観測した平成28年熊本地震の震源断層である。断層の変位によって,熊本県内各所に亀裂や段差などの地表地震断層が観察された。熊本県益城町は,地震直後から変位が顕著に観察可能な場所であること,生活復旧への影響が最小限であることなどを条件として地表地震断層の保存の検討を開始し,杉堂(すぎどう)地区,堂園(どうぞの)地区,谷川(たにごう)地区の3か所について文化財として保存する方針を示した。その後,専門家の指導のもと町民と行政による保護活動が行われ,断層に沿って生じる湧水地も含めて保存が進められた。 布田川断層帯の地表地震断層は,熊本県嘉島町から益城町,西原村にかけてほぼ連続的に長さ約31kmで露出した。益城町杉堂地区や堂園地区をはじめ多くの地点で,北東―南西の方位に延びる右横ずれを示した。その最大変位約2.5mは堂園地区で記録されており,田畑と畦道の屈曲から確認できる。一方で,益城町谷川地区などでは,卓越する右横ずれ断層と斜交し北西―南東の方位に延びる左横ずれ断層が確認された。 これらの断層は,平成28年熊本地震で生じた多様な断層の運動と連続性を現わしており,学術上価値が高く,地震の被害を将来に伝える災害遺構としても貴重である。
詳細解説▶
詳細解説
布田川断層帯は、九州中央部の“別府―島原地溝”の南縁に位置する活断層群であり、マグニチュード(Mj)7.3、最大震度7を観測した平成28年(2016)熊本地震の震源断層である。九州中央部を横断する、“別府―島原地溝”は、日本列島においては例外的に南北伸張の応力が働いている地域である。その北縁と南縁はいずれも活断層により境される。主な活断層として、北縁部の水縄(みのう)断層、南縁部の布田川断層帯及び日奈久(ひなぐ)断層帯のほか、別府―万年山(はねやま)断層帯、雲仙断層群などがある。これらは天武7年(679)の筑紫地震、文禄5年(1596)の慶長豊後地震などを発生させ、地震活動が活発な地域である。地溝の一部は、地溝の成因と密接な関係にあると考えられる九重山や阿蘇山などの新期火山噴出物に覆われている。平成28年熊本地震の震源断層となった布田川断層帯の分布は、地震前から地形調査などに基づき活断層として認識されて調べられており、阿蘇外輪山(がいりんざん)の西側にあたる熊本県南阿蘇村から、宇土半島の先端部まで延び、全体の長さは約64km以上と考えられていた。将来マグニチュード7クラスの地震を発生させ、その際約2mの横ずれを生じさせる可能性が指摘されていた。 平成28年熊本地震は、まず平成28年4月14日21時26分に熊本県熊本地方を震央とする震源の深さ11km、マグニチュード6.5の地震が発生し、益城町で震度7を観測した。さらに4月16日1時25分に同じく熊本地方を震央とする震源の深さ12km、マグニチュード7.3の地震が発生し、益城町と西原村で震度7を観測した。いずれも、布田川断層帯と日奈久断層帯が接する益城町付近を震源としており、16日の地震は布田川断層帯で発生したと考えられている。同じ場所で連続して震度7を記録したのは、観測史上初めてのことであった。地震による地表への影響は、断層の運動で生じた亀裂や段差などの地表の変位、地震動による建物の倒壊と山体斜面の崩壊などを生じ、地域住民の生活や生業に多大な被害をもたらした。さらに、余震や誘発地震などによる影響も熊本県から大分県にかけて拡大した。 地震をともなって地上に露出した布田川断層帯の地表地震断層は、熊本県嘉島町から益城町、西原村にかけてほぼ連続的に長さ約31kmに及んだ。そして、益城町杉堂地区や堂園地区をはじめ多くの地点で、北東―南西の方向に延びる右横ずれを示した。最大変位は堂園地区で記録され(2.5m)、田畑と畦道の屈曲から確認できる。一方で、益城町谷川地区などでは、北東―南西方向の右横ずれ断層、これに斜交する北西―南東の方向に延びる左横ずれ断層からなる共役(きょうやく)断層(だんそう)が確認された。 以下、保存する3か所の詳細である。 (1)杉堂(すぎどう)地区 杉堂地区では、東から西方向へ流れる布田川の南岸側に断層崖が連続する。布田川は「布田川断層帯」の名称となった河川である。断層崖下部からは、阿蘇火山起源の火山砕屑物(さいせつぶつ)中を流れてきた被圧地下水が湧出し、「潮井(しおい)水源」として地域で利用されてきた。今回の地震後、潮井水源内に鎮座する潮井神社境内地において、長さ約8mの地表地震断層が確認された。参道石段には、断層運動に伴う右横ずれと、断層崖における重力変位に伴うすべりの双方が認められ、地震断層に沿って階段を含む斜面が変位した状況を明瞭に知ることができる。その横ずれ変位量は最大で約1m、垂直変位は最大約0.7m(北側が低下)であった。 (2)堂園(どうぞの)地区 圃場地表に北東―南西方向の走向で総延長180mにわたって横ずれ変位が認められた。畔の形状からは、右横ずれを顕著に確認することができる。その変位量の最大値は2.5mであり、平成28年熊本地震の地表地震断層のうち最大の横ずれ変位である。 (3)谷川(たにごう)地区 民家敷地内において、主断層とこれに交差する断層からなる共役断層が地表に表出している。東北東―西南西走向の地表地震断層は主断層であり、敷地内で長さ約35m部分が検出され、断層南側が相対的に最大約0.4m沈降し、約0.6mの右横ずれがみられた。東南東―西北西方向の地表断層は主断層に対し斜交し、敷地内で長さ約40m部分が検出され、断層北側が相対的に最大約0.7m沈降し、約0.8mの左横ずれがみられた。また、断層上の建物(納屋)は、倒壊は免れたものの断層の変位にともなって傾いた。 上記の3か所について、益城町は地震直後から地表地震断層の保存の検討を開始し、変位が顕著に観察可能な場所であること、生活復旧への影響が最小限であることなどを条件として文化財として保存する方針を示していた。そして、専門家の指導のもと町民と行政による保護活動が行われ、断層に沿って生じる湧水地も含めた保存が進められてきた。さらに、断層に沿った集落で語り継がれてきた伝承と過去の地震との関係性や、変動地形と関わりのある現在の人々の暮らしなどを統合的に研究し、後世に伝える取り組みが始められた。 以上のように、布田川断層帯は九州中央部の“別府―島原地溝”の変動地形を構成する活断層として、さらに平成28年熊本地震で変位した地表地震断層として、学術上の価値がきわめて高い。加えて、地表地震断層を保存し、地域づくりに活かす取り組みが始まるなど、災害遺構としての価値も有する。したがって、布田川断層帯を天然記念物に指定し、保存を図るものである。